新島の魅力をもっとおもしろく るとり代表 荻野岳士氏と、塩職人 齊木佑介氏 インタビュー
副業チームが集まり新島で事業を展開する、合同会社るとり代表の萩野岳士氏と、新島在住のメンバー齊木佑介氏に新島での事業展開についてお話を伺いました。

全員が「副業」のプロフェッショナルチーム
―メンバー全員が副業として、るとりに参画されていると伺いました。
萩野岳士:全員が同じ副業という立ち位置なので、誰か一人に負担が偏ることもなく、「やれる人がやろう」というフラットなチーム運営ができています。会社員、デザイナー、エンジニア、塩職人など、それぞれの本業で培った専門性を持ち寄れることも、るとりの強みです。島に暮らすメンバーの信頼関係と、島外メンバーの視点やネットワークを組み合わせながら事業を進めています。
―新島で事業を始めることになった「きっかけ」を教えてください。
萩野:東京都の「地域との縁づくりプログラム」の一環で行われた「100DIVE」と言う研修プログラムに参加したのが始まりです。最初は「社外の人と知り合えたら楽しそうだな」くらいの気持ちでしたが、約3か月にわたり島の課題と事業案を考え、提案が最優秀案に選ばれました。その後も構想だけで終わらせず、仲間と現地で実証を重ね、2024年6月に会社を設立しました。

「るとり」に込めた想いと3本の柱
―「るとり」という名前には、どのような意味があるのですか?
萩野:「Root and Leaf」の頭の文字から、「る・と・り」です。一歩ずつ前進し、新島にしっかりと根を張り、そこから葉を広げてコミュニティを大きくしていきたい。そして心も体も健康になれる「美しい時間」を提供したいという想いを込めています。
―具体的にはどのような事業を展開されているのでしょうか。
萩野:「宿泊・農業・体験業」の3つを柱にしています。宿「Bed & Harvest Niijima」は2026年7月から関係者向けのプレオープンを開始し、運営を検証しながら段階的に受け入れを広げています。正式なグランドオープン日は9月5日(土)です。宿は、新島の中では少し高級で落ち着ける空間をコンセプトにしていて、テレビも置かず、自然の音だけを楽しめる設計です。農業は耕作放棄地を借り上げて、アメリカ芋や明日葉などを育てています。2024年には約3,000㎡の農地を開墾し、明日葉の収穫から塩工房、足湯、島食までをつないだ体験ツアーも実証しました。最近は農業に興味がある20代の若者たちも多く、スポットで手伝いに来てくれる人脈も広がってきたところです。体験業は、明日葉の収穫体験や、塩職人の齊木さんと連携した塩作り体験など、旬に合わせたコンテンツを提供していきます。
宿「Bed & Harvest Niijima」HP
https://bed-and-harvest.com/
※↑近日公開予定 2026年9月1日時点
新島村観光案内所
https://niijima-info.jp/stay/6774/



最新設備の「サウナ」と「食」へのこだわり
―宿にはサウナも完備されるそうですね。
萩野:新島特有のコーガ石でできた蔵を活用し、島の記憶と現代的なウェルネスを組み合わせたサウナを計画しています。大自然の中で水風呂と一緒に楽しめるよう、明日葉を使ったスチームや、塩職人である齊木さんの作る塩を活かした体験など、新島ならではの素材をどう取り入れるか試行錯誤しています。設備・提供内容は現在調整中のため、確定後に正式に案内する予定です。
―お食事についても、独自のこだわりがあると伺いました。
萩野:食事は、島の塩や野菜、飲食店など地域の作り手と連携しながら、宿泊プランに応じた形で提供していく予定です。また、お粥研究家 鈴木かゆさん検証の基、島独自のレシピで作るおかゆや、齊木さんの塩で作るおむすびなど、シンプルな日本食を通じて、私たちが育てたもの、島にあるものを最高の形で味わってもらう「食と自然」の掛け算で勝負したいと思っています。自ら収穫した明日葉を食卓で味わうような、「採る・知る・食べる」が一続きになる滞在を目指しています。
【朝食イメージ】るとりの朝ごはん
島を感じる、特別な朝時間を。
すべての料理をつなぐのは「塩」。青むろあじの「たたきのおかゆ」に齊木さんの塩、季節野菜と豚をふっくら蒸し上げ塩でいただく蒸しせいろ、塩おむすび。ひとつの島から生まれた塩が、朝ごはんをひとつの物語につないでいます。

「東京島酒」の次は「くさや」を世界へ
―これからの目標や、取り組みたい課題はありますか?
萩野:まずは新島の認知度を日本全体に広めたいです。そしてゆくゆくは世界レベルまで高めたいです。その起爆剤として考えているのが「くさや」です。現在は、東京都の島しょ産品ブランド化支援事業の採択を受け、新島・八丈島・伊豆大島の生産者や関係者と連携し、島ごとの製法や文化を尊重しながら、原料確保、生産性向上、商品開発、販路開拓、情報発信などを検討しています。将来的には、地域と結び付いた品質・製法・物語を地域の知的財産として保護するGI(地理的表示)登録も視野に入れていますが、現時点では構想・検討段階です。島同士が競うのではなく、伊豆諸島全体で「くさや」というブランドを底上げし、独特の香りだけでなく、発酵文化や職人の技、島の歴史まで伝えていきたいと考えています。
―萩野さんにとっての新島の魅力を教えてください。
萩野:最初は自然に癒やされましたが、通い続けるうちに人の魅力に気づきました。新島の人たちは本当に温かく、家族同然の感覚で迎え入れてくれます。この「人の温かさ」こそが、私が新島を好きになり、活動を続けられる一番の理由です。るとりも、宿泊して終わる場所ではなく、島の人や文化と出会い、帰った後もつながりが続く「関係の入口」になりたいと考えています。一度来た人が再訪者、応援者、そして一緒に島の未来をつくる仲間へと変わっていく。そんな循環を新島から育てていきたいです。

―新島に移住し、塩作りや飲食店経営に加えて、農業や宿の運営も担う齊木佑介さんにもお話を伺いました。齊木さんは、新島に移住してどのくらいになるのでしょうか。
齊木佑介:2014年頃に移住しており、現在で約12年になります。先輩に誘われてたまたま流れ着いた場所ですが、新島は本当に住みやすくて自分には合っているなと感じています。移住後は飲食店の運営、塩作り、農業へと活動を広げ、今はそれぞれを体験としてつなぐことにも挑戦しています。
―島内でも人気の塩職人さんだそうですね。お作りになっている『しおさいの塩』にはどのような特徴がありますか?
齊木:塩作りは、とにかく時間と手間をかけて自然の力を借りる作業です。最後は一瞬を見極めて、良い塩の状態で釜から上げることで『しおさいの塩』ならではの味わいを生み出しています。あえて粒の大きさを均一にせずに、細かい結晶と大きい結晶が混ざった「グラデーション」を作っています。これによって、口にした時にまず細かい粒が溶け、次に大きな粒がゆっくり溶けるという、味わいの変化を楽しめます。これは師匠から教わった大切な技術です。

―塩作りだけでなく、農業にも力を入れていらっしゃるとか。
齊木:新島のソウルフードであるアメリカ芋や明日葉、中玉トマトなどを育てています。新島の土は砂地なので、緑肥(植物をそのまま肥料にすること)を入れて有機物を増やし、長期的に良い土壌を作るための実験を繰り返しています。 理想は、自分が作った最高の塩と、その土地で育った野菜を一緒に楽しんでもらうことです。明日葉をその場で収穫して、自作の塩で天ぷらにして食べる......。そんな体験ができたら最高ですよね。
―新島での今の暮らしはいかがですか。
齊木:街灯もないような街の外れに住んでいますが、夜は星がきれいで、朝は鳥の声で目が覚めます。農作業で汗をびしょびしょにかいて、そのまま海に飛び込む。これが新島ならではのライフスタイルです。不便なこともありますが、無駄遣いもしなくなるし、今の暮らしが自分にはちょうどいいですね。これからも、この島でしか作れない塩と、この島でしかできない体験を形にしていきたいと思っています。
合同会社るとり
https://rutori.com/
宿「Bed & Harvest Niijima」
https://bed-and-harvest.com/