生まれ育った島の伝統を守りたい 坂下酒造 沖山範夫氏、サンダイヤ潮崎健太氏 インタビュー
八丈島に蔵元を構える坂下酒造代表の沖山範夫氏と、新型蒸留機「N-33」を開発した株式会社サンダイヤの潮崎健太氏にお話を伺いました。

バーテンダーから蔵元へ
―沖山さんは、もともと東京でバーテンダーをされていたそうですね。島に戻って酒造りを始めることになったきっかけを教えてください。
沖山:20歳から30歳過ぎまで杉並区の高円寺や中野、吉祥寺などでお店をやっていました。当時は洋酒がメインで、焼酎にはあまり興味がなかったんです(笑)。転機は、八丈島にあった磯崎酒造の知り合いから「後継ぎがいないからやってみないか」と声をかけてもらったことでした。生まれ育った島ですし、お酒を出す側から造る側に回るのもおもしろいかなと思って、30代という人生の節目に思い切って飛び込みました。
―知識ゼロからのスタートだったと伺いました。坂下酒造を再始動させる際は、かなり苦労されたのではないですか?
沖山:それはもう、大変でした(笑)。以前の杜氏(酒造りの責任者)の方が亡くなっていてマニュアルが一切なかったので、まさにゼロベース、手探り状態でした。機械も違えば環境も違う。1年目に失敗したところを2年目に直し、3年目にまた改善して......という「トライ&エラー」を何年も繰り返して、ようやく今の味に落ち着いたんです。

新蒸留機「N-33」
―そんな坂下酒造に新しい蒸留機「N-33」が導入されました。潮崎さん、この蒸留機について教えていただけますか?
潮崎:実は弊社は家庭用のオイルタンクや発電機の防音装置などを作っている会社なんです。新事業としてこの蒸留機を開発することになり、気づけば私もこのプロジェクトにどっぷり浸かっていました。
沖山:私は以前、設備関係の仕事をしていたこともあるので、サンダイヤさんと配管を組み立てたり、「もっとこうしよう」と現場で知恵を出し合ったりして今の形に仕上げました。

沖山:坂下酒造のスペースにぴったり合うようにサイズを調整して作った「世界に一つだけ」の初号機なんですよ。実際に使い、一緒にマニュアルを作っているような感覚です。まさに二人三脚ですね。

―「N-33」という名前の由来はなんでしょう?
潮崎:八丈島が「北緯33度」にあること、そしてお酒の度数を設定する際にテイスティングの結果、偶然にも33度が一番おいしいことに気付き設定しました。

―蒸留の方法についても、少し詳しく教えてください。
沖山:常圧蒸留と減圧蒸留の違いは、沸騰させる温度にあります。昔ながらのやり方が常圧蒸留で、高い温度でお酒を煮立たせます。雑味も少し入りますが、それが旨味やコクになって、長く寝かせるほどおいしくなる力強いお酒になります。一方で「N-33」は減圧蒸留です。真空ポンプで機械の中の気圧を下げて、低い温度でお酒を沸騰させます。低い温度でそっと蒸留するので、バナナやリンゴのようなフルーティーで華やかな香りが残りやすく、クリアできれいな味になるんです。
潮崎:「N-33」で造ったお酒を初めて見た時は、その透明感に驚きました。何も濾過(ろか)していないのに、そのままロックで飲みたくなるような、本当に美しいお酒なんです。

共同プロジェクト『罪人(ZAININ)』と今後の展望
―最近話題の『罪人(ZAININ)』という銘柄についても教えてください。
沖山:UNFILTER社との共同プロジェクトで生まれました。名前は刺激的ですが、八丈島がかつて流刑地だった歴史や先人へのリスペクトを込めたネーミングです。バーテンダー時代の経験から、信頼できる売り手に思いを託すことで、作り手は酒造りに集中できる。良い関係性で世界に発信できています。
―お二人のこれからの展望を教えてください。
潮崎:沖山さんからいただく現場の声を大切にして、もっと使いやすく、もっとおいしいお酒が造れるように機械を進化させていきたいですね。それが次の2号機、3号機へのステップになると思っています。
沖山:私はやっぱり、この島で育った人間が島の水と土で育った芋を使ってお酒を造ることに意味があると感じています。島外から来た潮崎さんのような新しい力も受け入れながら、八丈島らしい、ここでしか造れない味を追求していきたいですね。いつか島に来てくれた皆さんと、この「N-33」で造ったお酒で乾杯できるのを楽しみにしています。
坂下酒造 有限会社
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