見渡せば宝の山?椿の島「利島」が取り組み始めた、小さな島ならではの観光のかたち。

東京の島々の魅力、その可能性を見つけ出し、発展させていく「東京宝島」プロジェクト。編集部が、今回ご紹介するのは、島の8割が椿に覆われた利島で12月4・5日に開催された体験型観光プログラムのモニターツアーです。このツアーの発起人であり、利島で起業し、椿産業をはじめ、もみほぐし店やテントサウナなどの事業を展開する大磯元希さんにお話を伺いました。

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島の人々や暮らしの中にある
観光の種。

―今回のモニターには、300名を超える応募があったと伺っています。
どうしてこのような体験型観光ツアーを開催しようと考えたのですか?

大磯さん:わたしたちも予想以上の応募数にびっくりしています。その中から、3名の方に参加していただきました。
利島は、これまで観光についてあまり力を入れてきませんでした。それは、この島には目立った観光資源がないと思っていたからです。しかし、島の椿、神社、からむし織、明日葉、そして海に囲まれたロケーション、何よりここに暮らす人々の温かさ。視点を変えれば、こうした島の文化や伝統、産業、人の魅力そのものが観光資源となる。利島で受け継がれてきた暮らしにフォーカスして体験型観光プログラムをつくることで、ほかとは違うまだ知られていない利島の魅力を引き出し、様々な人々との交流、さらには島の未来につなげていくことが目的です。小さな島ですから、できることには限りがありますが、少しずつ、利島を知ってもらい、利島を好きになって、利島と関わってくれる人を増やすこと。まずはスタートを切ることが重要だと考え今回のツアーを開催しました。

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―今回のツアーでは「利島の恵みを満喫する」というテーマがあるそうですが、その中でも、「椿拾い」を体験に選んだのは何か理由があるのでしょうか?

大磯さん:椿産業は、利島を代表する基幹産業です。その中でも「椿拾い」は、椿油をつくる上で重要な作業です。だからこそ、みなさんに体験してもらいたいと考えました。利島の椿油は、江戸時代から伝えられてきた栽培・収穫・生産方法を継承してつくられていて、オーガニック認証も取得しています。摘み取るのではなく、完熟して実(種子)が弾け落ちるのを待ち、ひとつずつ丁寧に手で拾うため、夏場には椿の木のまわりの下草を刈る「キッパライ(シタッパライ)」という作業が欠かせません。雑草があると、落ちた小さな実が見つけにくいからです。
今回、地元の椿農家のご協力を得て、モニターの方に、椿山で1時間の椿拾いを体験していただくことができました。1時間でも長かったようで「農家さんは大変だ」との感想が聞かれました。ただ、みなさんが大変だと思われた椿拾いも、島民にとっては一年に一度の「収穫」という一番うれしい作業なんです。次は、「大変さ」だけでなく「喜び」も共有できるような一年を通して、2回でも3回でも利島に、椿に関わってもらえる新たな企画も考えたいと思っています。

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利島の自然が与えてくれる宝物。

―椿拾いの際に、捨てられてしまうような椿の小枝やなども拾ってもらい、フォトフレーム作りにも挑戦したそうですね。

大磯さん:島を覆うほどの椿ですが、年に数千本の椿がその役目を終えて、廃材となっています。以前は、その廃材を炭にしてそれぞれの家の囲炉裏で暖をとるために利用していましたが、残念ながら、今は囲炉裏の家もほとんどなく、炭を作る人もいなくなってしまいました。
昔から「椿は捨てるところがない」「椿の炭はいい」など、農家さんからずっと聞いていたので何かできないかと考えていたところでした。
今回の廃材を活用したフォトフレーム作りを通して、椿の利用価値について知り、考えてもらえたらと体験の一つに入れてみたんです。会場となった家の囲炉裏では、椿の炭を焚き、農家さんや椿産業を手伝ってくれている団体の学生も参加して、椿についていろいろ話をしながら、それぞれに個性のある作品が出来ておもしろかったですね。

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―からむし織でコースターも作ったとのことですが、利島のからむし織について教えてください。

大磯さん:からむし織自体は、福島や新潟、沖縄などに伝わる日本の伝統工芸です。「からむし(苧麻)」とはイラクサ科の多年生植物のことで、天然の繊維として織物などに利用されています。沖縄で創作野草木自然織り作家として活動されている出口富美子氏が仕事で利島を訪れた際に、この地のからむしを見て宝の山だと思ったそうです。椿のまわりに生える利島のからむしは独特な深い緑色をしていて、その色は他にはないとのことでした。その後、福島県昭和村よりからむし織文化を輸入し利島村からむし織りの会が発足しました。出口氏のおかげで、他にはないこの島の自然の恵みに気づかせてもらったんです。その色以外にも、椿の花をはじめ明日葉やクサギなど、利島の植物で天然の色に糸を染め、利島独自の工芸品として島民によってからむし織りは続けられています。参加者の方には、事前に用意した織り機と糸でコースターを作ってもらいました。織物や手芸などへの興味の有無で、作業には個人差もあり時間のかかった方もいたようですが、自然の色が映えるコースターができ、このツアーのよいお土産になったと思います。

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人の温かさが伝わる、
島ならではの観光のかたち。

―椿拾い、フォトフレーム作り、からむし織と充実した内容だったかと思いますが、
参加された方々の感想はいかがでしたか?

大磯さん:参加者のみなさん、それぞれに利島について知識もある方々で、いろいろな意見をいただくことができ、特に椿産業の未来については、熱く議論を深めてくださいました。その中でも、私がうれしかったのは、「島の人々は温かい」ということを、みなさんがおっしゃってくださったこと。利島のよさがこのツアーで伝わったことを実感できたのが何よりの収穫です。
そして、モニターの方が来てくださったことで、島民の「観光」への理解も少しずつですが変化しつつあります。参加者のみなさんと、一緒に話し、作業をしたり、食事を共にしたり、家族や親戚のような感覚で時間を過ごせたことが、小さい島ならではの「観光」のかたちをおぼろげながらにも共有できたように思います。このことは、これから取り組んでいくにあたり大切な一歩となりました。

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―第一回のモニターツアーを終えて、今後について、何か考えていらっしゃることや取り組んでみたいことなどはありますか?

大磯さん:今回は、スタートとなるモニターツアーでしたが、反省すべき点とともに手応えも感じました。やはり、継続して開催していくことが大事なんだと感じています。
さまざまな形で、利島に興味をもって関わってくれる人、最終的には移住や椿産業を盛り上げてくれるような人々を増やしていけたらいいなと思っているので、そのためにも、そういう土壌作りや受け皿についても並行して考えていかなければと思っています。

ありがとうございました。受け継がれてきたものを守りながら発展させていくのは、私たちが想像する以上に大変なことですよね。そのための取り組みは始まったばかりですが、確実に前に進んでいる感じを受けました。次回、またレポートするのが楽しみです。