島の誇りの「黄楊・桑」を、現代林業のプロとつなぎ、価値を未来につないでいく。

東京の島に眠る可能性を、見つけて、磨いて、届けていく、東京宝島プロジェクト。今回は御蔵島の林業に関する取り組みをレポートします。御蔵島ならではの高級木材として知られる黄楊(つげ)・桑。その価値を未来に向けてさらに高めていくために、革新的な林業を行う専門家とパートナーシップを締結。流通の窓口を担うふくまる商店の山田さんにお話を伺いました。

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つくれば欲しい人はいる。
つくれないのは、もったいない。

ー御蔵島の伝統産業である黄楊・桑のブランディング事業を行っていると伺いましたが、
どのような目的で始められたのでしょうか?

山田さん:御蔵島の特産品である黄楊・桑は、高級木材として高い付加価値がある、知るひとぞ知る名木です。しかしサイズの小ささや加工難度の高さから用途が限られており、サステナビリティの観点では未来に産業を継いでいくための課題を抱えていました。島の誇りである黄楊・桑の産業をあらゆる角度から支援して、その価値を高め、御蔵島の林業を持続可能なものにしていくことが、私たちが行っているブランディング活動の目的です。

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ーそもそもお土産屋さんである山田さんが、なぜ木材のブランディングに関わることになったのですか。

山田さん:都内でデザイナーをしていた私たち夫婦が、御蔵島に移住してきたのは2008年のこと。自分でデザインしたものを売りたくてお土産屋さんを始めたのですが、島内の黄楊・桑を加工して商品を作っている御蔵島産業センターから「黄楊・桑の商品を売ってくれないか」と依頼があったのがきっかけです。その後、黄楊・桑商品のパッケージデザインをしたり、流通の窓口を請け負うようになり今に至ります。

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ーなるほど、販売する側の視点から様々な取り組みを考えられているのですね。
そんな山田さんから見て黄楊・桑とはどんな木材なのでしょう?

山田さん:黄楊・桑にたいへんな魅力と需要があることは、島に来てからずっと実感していました。黄楊は最高級の将棋駒の素材として知られるほか、アクセサリーやナイフの柄として使いたいという声もあり、非常に熱心な愛好家がいるんです。いっぽう桑は黄楊よりも知名度は低いですが、使うほど深みを増す色や生地の良さは他の木にないもの。木目を生かしたお箸が特に人気で、浅草のかっぱ橋で外国人観光客に人気が出ていたりします。需要はあるのに、供給が追いついていないのが非常にもったいないと思っていました。

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内地のプロの目で見れば、
ここは宝の山かもしれない。

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ー流通に関わりながら様々な方と接していく中で見えてきた課題があったのですね。
これまではどのような取り組みを行われてきたのでしょうか?

山田さん:昨年までは島外の作家さんに黄楊・桑を使った作品を作ってもらうなど、広く木材としての認知を拡大する取り組みを行っていました。しかし、改めて課題を整理する中で見えてきたのは、「生育切り出し加工流通」のサプライチェーン全体に課題があるということ。例えば島内に林業の従事者が少なく、中心を担う方が高齢化していることも課題ですし、ただしく利益を生み出す仕組みを作っていくことも必要です。

そこで私たちが考えたのは「現代林業のプロと御蔵島をつなぐこと」でした。内地で革新的な林業を行う外部パートナーを島に連れて行けば、その視点から課題解決の方法や、新たな魅力を発見できると考えたのです。

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ーなるほど、先進的なパートナーの目を通して見るとたしかに発見がありそうです。
取り組みの実施状況はいかがですか。

山田さん:内地にある、林業のサプライチェーンに造詣が深い会社を外部パートナーとして招き、まずは現地視察を行いました。御蔵島の林業は歴史が古く、生育から流通までが伝統的な方法で継承されています。その点が御蔵島ならではの価値につながっている一方で、現代的な林業との乖離も見られ、時代に合わせた改善をしていく必要がある。そもそも従事者が少なく、御蔵島の今の林業の実態を誰も把握していないことも課題だったんです。

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ーたしかに、歴史ある産業であるがゆえの課題ですね。
現地調査ではどのようなことを調査し、どんな成果が得られましたか?

山田さん:産業センターを皮切りに、島内の様々な施設や工程を見学しました。中でも印象的だったのは、島内でほぼ唯一、黄楊と桑の切り出しを行っている廣瀬惣次さん(79歳)による切り出し工程の視察。平らに整地された土地に植林されている内地のスギやヒノキなどと比べ、御蔵島の黄楊は山奥の急斜面に植林されており、切り出しの難易度が高く、独特のノウハウが必要なんです。また、黄楊はその杢目によって木材としての価値が上がりますが、そのためには特殊な技術と機材が必要。例えば根の部分に出やすい根杢(ねもく)が入った黄楊は非常に希少価値が高いですが、通常の方法では切り出せず、根切り用チェーンソウを使って切り株を切り出す必要があります。

このように現状を視察したのち、廣瀬さんからは今後の御蔵島林業にかける思いもざっくばらんにお伺いしました。今回の視察から生まれる具体的な改善の方法についてはまだ詳しくは語れませんが、ここで見つけた魅力と課題をもとに、御蔵島の誇りを未来へつないでいくための方針を、レポートとしてまとめていく予定です。

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ー取材の中で、黄楊は育つのに100年、200年という長い年月がかかることもお伺いしました。
気の遠くなる歳月をかけて育つものであるため、すぐには利益につながらない。
けれど、歳月がかかるものであるがゆえ、次世代のために残していくべき価値がある。

目先の利益ではなく、遠い未来を見据え、中長期的な視点で挑む山田さんたちのプロジェクト。
こう行った取り組みこそが、島や地域を本当の意味で活性化させるには必要なのではないでしょうか。