「第12回東京宝島会議」を開催!

新たな視点での取り組みで島はどのように変わったのか?
第12回東京宝島会議レポート

東京の島々の魅力、その可能性を見つけ出し、発展させていく「東京宝島事業」。今年度を締め括る「第12回東京宝島会議」が、2024年3月8日、東京・赤坂でリアルとオンラインを併用して開催されました。
各島の事業者とブランドサポーターシップに参加した大学生のほか、関係者が一堂に会し、それぞれの島の活動と成果を報告・共有、さらに次年度へとつなげていきます。

第一部は、今年度、新たに立ち上げられたブランドサポーターシップの活動と成果の発表です。東京女子大学・國學院大學・東京都立大学の3大学より選出された学生とともに、参加に名乗りをあげた3つの受け入れ事業者が産品開発や情報発信の磨き上げに取り組みました。
学生たちの提案は実際にどのようなものだったのでしょうか?
3つの島の取り組みをそれぞれ見ていきたいと思います。

<第一部>ブランドサポーターシップ

若者の懸命な姿が、
島を変えていく。

tokyoconference12_1.jpg

最初の発表は、大島から。
取り組んだ商品は、大島の伝統銘菓「えびすや土産店」の牛乳煎餅です。
学生は、提案向けて牛乳煎餅を知るために昨年夏、現地実習に大島を訪れました。生地作りから焼きまでの準備作業を実際に体験し、焼きの工程も見学。
キャッチコピーや動画の制作、アレンジレシピをSNSで発信するほか、ミニチュアや新しいデザインの焼き印も提案し、イベントではその魅力を直接お客様に伝え販売を行いました。

東京女子大学の佐野茉莉香さんは「夏場40度を超える暑さの中でも、丁寧に一枚一枚焼いているのを見て、手作りの大変さと素晴らしさを感じ、牛乳煎餅の魅力をなんとか伝えたい」との思いだったと語り、受け入れ事業者で、えびすや土産店の三代目を継いだ津崎ほたるさんからは「一人で店を切り盛りする中で若い方の意見を聞いてみたいと思って、この事業に参加しましたが、学生さんが本当に一生懸命取り組んでくれる姿に私自身が勇気をもらいました」と感謝が伝えられました。

tokyoconference12_2.jpg

次は、利島農業協同組合の椿油です。
椿の島ともいわれる利島の名産品、椿油をZ世代の視点でブランディングするというこの取り組みで、学生は現地実習で実際に椿の実を拾ったり、精油工場を見学。椿油ができるまでの工程を学ぶと同時に、利島への理解を深めるため島民へのインタビューも行いました。
椿油や利島のよさを伝えるための方法として「体験」をテーマに、椿の花をイメージしたパッケージのギフトと、そのギフトに添える「島民の方々からの手紙」としたリーフレット制作などを提案。発表会では島民の方にもその提案を聞いていただきました。ギフトは、商品化に向け現在試作品を製作中です。

東京女子大学の小栗奈那帆さんは「現地実習に参加して、椿油や利島のよさは体験してこそ伝わると感じました。椿油のギフトを多くの方に届けることで、椿油、そして利島を愛していただけたらと思っています」と話し、利島農業協同組合の加藤大樹さんからは「発表会に参加した島民から『島の外の若い人たちがこれだけ一生懸命考えてくれるのだから、島の中からもっと考えなければいけない』という声が聞かれたことが何よりの収穫です」と、島民の変化を実感したコメントがありました。

tokyoconference12_3.jpg

ブランドサポーターシップ、最後の発表は八丈島の東京島酒です。
東京島酒のチームは、都内飲食店で試飲交流会を開催しました。試飲交流会はお酒離れが進んでいると言われる若い世代に新しい島酒の飲み方を知ってもらうことで、島酒を飲んでもらえるきっかけをつくろうと、コーラやフルーツジュース、アイスなど、若者ならでは視点で割り材が用意されました。この提案のために、学生は八丈島で酒蔵の見学・実習・取材の他、事前アンケートも実施して、4つの蔵元に20代~30代に向けた提案をプレゼンテーションしました。

東京女子大学・加賀谷優佳さんは「今回の活動を通して、島酒や八丈島と私たち世代の感性・価値観などが交わることで新たな可能性が生まれることを実感できた」と話します。東京都七島酒造組合の皆さんからは「こうしたきっかけがあれば、若い人にも案外焼酎を飲んでいただけることもわかり、知っていただくことの大切さを実感しました」とのビデオメッセージが届きました。

<第二部>アクセラレーションプログラム

第二部では、14の事業者がこの一年間の活動と成果を発表。
移住推進、島内活性、誘客、商品開発、文化交流など、さまざまな課題に対して、それぞれの事業者がテーマを持って取り組みました。


体験を通して
島を好きになってもらう。

発表された活動の中でも
島の魅力を伝える手立てとして「体験」は一つのキーワードとなっていました。
遠くても近くても心を寄せる存在になってもらうには、
知ってもらい体験して感じてもらうことが何より大切だということを
事業者のみなさんの発表から感じました。

tokyoconference12_4.jpg

移住者向けのセミナーを開催し「"移住・定住"体験プログラムによる未来人材の発掘」に取り組んだ式根島。実際に島での暮らしや仕事、島民との交流する体験ツアーを実施することで、島に関わってもらえる人を一人でも増やしていければと活動を進めている「一般社団法人式根島エリアマネジメント」の下井勝博さん。


下井さん:今回、東京の8割の人が東京に島があることを知らないというアンケート結果に衝撃を受けました。まずは知ってもらうことにも注力していきたいと考えています。これまでのワーケーションを軸にした企業研修などの誘致も引き続き行いながら、港区の企業との連携から新たな取り組みにもチャレンジしていく予定です。

tokyoconference12_5.jpg

八丈島では、若者に八丈島でしかできない体験を提供することで関係人口の創出を図り、移住へつなげていこうという「U29ディスカバリーツアー」を実施。ツアーでは、地場産業での就農体験や島の経営者との交流、釣りや八丈太鼓、そして満天の星空など、様々な体験や島民との交流が盛り込まれました。「八丈島U29プロジェクト」のプロジェクトリーダーとして移住への課題に取り組む持丸沙代子さんは、今後の取り組みついて次のように話しました。

持丸さん:今後も若い方々に八丈島への移住に興味を持っていただけるよう、島の受け入れ環境も整備しながら継続的なアプローチを検討していきたいと考えています。

tokyoconference12_6.jpg

日本で最も行くことが困難な島といわれる青ヶ島の「-IJYU-青ヶ島移住体験プロジェクト」では、移住後の働き方「青ヶ島で仕事を探して移住」と「リモートワークで移住」の2種類で体験を実施。7泊8日の体験の中で、職業体験や島民との交流を通して大変なことも正直に伝え、良くも悪くも現実をみてしっかり体感してもらって移住後のギャップ解消を図っています。発表は、プロジェクトの事務局である株式会社マインドシェアの遠藤さんです。

遠藤さん:参加者が投稿してくれたSNSの投稿のインプレッションも高く、自治体として最小人口のこの島で移住体験プログラムを実施できたことは大きな成果でした。

tokyoconference12_8.jpg

新たな視点で、八丈島の旅を考えてみようという取り組み「リタビプロジェクト」。今年度は、「リタビ」の拡充とチームビルディングプログラムということで、その企画・開催と準備に取り組むリタビプロジェクト/魚谷孝之さん。イベントでは、ゲストを迎えて「利他」をテーマにディカッションやワークショップなどを予定しています。

魚谷さん:八丈島への旅が変わっていくには今後も「利他」という考え方が必要です。そのためにもイベント・リタビフェスの実施と、そこで得られた知見をチームビルディングプログラム作成に活かして、さらに「リタビ」を発展させていきたいと思っています。



tokyoconference12_7.jpg

新島の「音で人が結ばれる宝島」。コロナ禍でしぼんでしまった音楽イベントを復活させて島を盛り上げたかったという新島DIY/の豊泉誠さん。しかし、参加する人も島民も楽しめるようにするには、強い体験が必要だと考え、20人~50人くらいの規模感で特にコアなファンを持つミュージシャンを誘致、ヨガなどを盛り込んだユニークな音楽イベントを開催しました。

豊泉さん:大きなイベントを一回やって終わりではなく、小規模でも継続してやっていくことで、出演者や参加者も、島民とのつながりが生まれ、自分事として島のことを考えてくれる人が増えてくれると思います。

tokyoconference12_9.jpg

利島では「幸6000年の恵を感じる利島ツーリズムプロジェクト」として、体験を通して利島の魅力を伝える観光を開発することにチャレンジ。発表者は「利島体験型観光探求チーム」アドバイザーの染谷恭子さん。2泊3日のモニターツアーでは、利島の歴史資料館をみてもらった上で、椿の実を拾う農業体験、からむし織体験、そして椿の廃材を使ったフォトフレームを作り、体験から感じたことや島の現状について参加者と島民との間で率直な意見が交わされました。

染谷さん:今後は、日帰り、季節などにもあわせて体験できるような幅広いメニューを検討していきたいと考えています。

tokyoconference12_10.jpg

父島では、訪日外国人向け観光消費額向上ということで、ターゲットを絞り外国人富裕層にむけた短期・長期のモデルコース開発や情報発信に取り組みました。具体的には、外国人シェフを招いてモデルコースのモニタリングツアーや島の食材を使ったオリジナルメニューの開発などを実施。父島訪日外国人向け観光消費額向上プロジェクト/増山大輔さんによると、多くの宿泊施設でモデルコースをホームページで発信してから問い合わせの増加を実感しているそうです。

増山さん:今後は、インバウンド市場にツアーを流通させたり、小笠原特産品の欧州PRなども考えています。


島が持つ魅力を
かたちにする。

それぞれの島が持っている個性はすでに魅力です。
それは、自然であり、人であり、空気感ともいえるかもしれません。
今まで当たり前にあったものをかたちにすることで魅力として伝える。
次は、そんな取り組みの数々です。

tokyoconference12_11.jpg

八丈島では、昨年、制作した八丈島のキャラクター「メカキョン」を活用してSNSでPRするとともに、八丈島のご当地ソングとミュージックビデオ(MV)を制作して若年層への訴求を図りました。ご当地ソング「八丈島DUB」の作詞はなんと島民。MV制作にも島民106名が参加しています。「DUB」はレゲエ用語で「バージョン」という意味。制作を引っ張った東京宝島七色八丈プロジェクトチーム/歌川真哉さんによれば、元々は「LOVE」だったところを、他島へ展開したいという想いも込めて「DUB」とつけたそうです。

歌川さん:今回のMVは、2023年の夏から秋にかけての八丈島の記録です。何年後かにはまた作り直して、その時に残っている風景や人物の姿を残していきたいと考えています。

tokyoconference12_12.jpg


青く長い髪が特徴のキャラクター「島むすめ・青ヶ島ひんぎゃ」。東京11島の「島むすめ」の先陣を切って制作されました。島むすめキャラクターには、島の魅力を反映させ、島をアピールできるような要素が盛り込まれました。
立川で開催したお披露目会には70名が参加。「魅力たっぷり東京『島むすめ!』~個性あふれる東京の島々で推しをみつける旅~」と題して、このプロジェクトに取り組んだ青ヶ島のアオガミライ/佐々木加絵さんは、キャラクターや島に対する関心の高さを実感したと言います。

佐々木さん:島むすめ「青ヶ島ひんぎゃ」が、アイランドホッピングのきっかけになるようなキャラクターになってくれたらいいなと思っています。

tokyoconference12_13.jpg

「八丈島やろごんプロジェクト」の「やろごん」とは島言葉で「やろう」という意味。その言葉通りに実践したのは、都立八丈高等学校の「八丈学」授業のサポートを行う八丈高校地域協働学習実施支援員チーム/大金あやさん。高校1年生の冊子作成、3年生が島の事業者とともに開発した未利用魚のオリジナルのくさやの商品化をはじめ高校生のアイデアを地域活性プロジェクトへとつなげました。

大金さん:高校生を巻き込み新たな切り口で八丈島の魅力を発信していければと思っています。私たち自身も新たに八丈島の魅力を知る機会にもなりました。

tokyoconference12_14.jpg

「利島の椿からビールをつくる」にチャレンジした利島では、東京農業大学の協力を得て、椿の花の酵母からのビール「カメリアエール」を開発。椿の酵母からのビール開発は、それ以外の島にある原料からもビールをつくれる可能性を示す大きな一歩です。開発に携わってきた椿ビールで乾杯チーム/加藤大樹さんによれば、現在は「カメリアビール」の販売方法を検討しているとのことです。

加藤さん:将来的には、まず島内に。最終的には各島にビールの醸造所を造ることを目標に今後も活動していきたいと考えています。

一つのことに向き合って
同じ時間を過ごす。

バレーボールでも、太鼓でも、会議でも。
一つのことに向き合って同じ時間を過ごすと、
一体感や楽しさ、達成感みたいなものが感じられたりします。
次の発表は、交流とか活性化のきっかけは、本当はすぐ近くにあるのかもしれないと思わせてくれるものでした。

tokyoconference12_15.jpg

「つなぐ」をキーワードにバレーボールを通して交流を図る「しまスポ2023-TSUNAGU-伊豆大島」の活動は、今年度で2年目。「バレーボール島キャンプ」「島おこしビーチバレー教室」などから、大学生、高校生、アスリートの方々、島民とのつながりが生まれています。「楽しかった」「また来年も来たい」との参加者の声に東京宝島-TSUNAGU-伊豆大島/小林祐介さんは、バレーボールをきっかけに大島の魅力を体感してもらえたことを実感していました。

小林さん:今後、神津島と大島の子どもたちの交流や合宿を受け入れる環境や制度を整えて、もっと展開させていきたいと考えています。

tokyoconference12_16.jpg

「伊豆諸島南部の郷土文化を通した地域ブランディング」に取り組む青ヶ島還住太鼓/荒井智史さんたちは、郷土文化研修のために訪問した南大東島で地域の豊かさにおける郷土文化の必要性を再確認。青ヶ島の郷土芸能保存会の20周年に、韓国の芸能者を迎えて子どもたちへの体験授業や記念公演を開催し、伝統芸能を継承するという活動に活気を取り戻しました。


荒井さん:記念公演は大きな成果でした。今後もこのような活動を続けていきたいと思っています。

tokyoconference12_17.jpg

オンラインでの発表となった父島みらい会議/深澤丞さん。「父島みらい会議」では今年度動画配信とシンポジウムの開催を目標に立て活動。さらに、もっとよりよい島にしていくために仲間を増やしたいと1月に月1回の父島みらい会議を拡大したシンポジウム「第一回父島わがまま会議」を開催しました。甑島の山下健太さんをお招きして話を聞き、その後の参加者によるディスカッションは大いに盛り上がり、これからの活動へのとてもよい起爆剤になったとのお話でした。

深澤さん: 今後は、これらの会議で得たアイデアの実現を目指していきたいと考えています。

以上、14事業者による活動報告と成果が発表されました。


最後に、有識者と東京宝島推進委員会からの講評がありました。
株式会社ジェイ・ファイン/木谷敏雄氏
東京宝島推進委員会/小林真理子委員、楓千里委員、矢ケ崎紀子委員、山田敦郎委員長

活動を加速させ、
島をもっと元気に。

まず、数多くの地域活性化事業に携わってこられた株式会社ジェイ・ファインの木谷敏雄氏は、今年度、新たに取り組んだブランドサポーターシップに触れ、参加者にエールを送りました。

木谷氏:学生の皆さんとの交流で、地域の方々にとっても多くの気づきが生まれ、持続可能な地域づくりが進むきっかけとなるプロジェクトになっていると思います。今まであったものを変革して何か事業を起こすことで、これからの時代を乗り越えていきましょう。

東京宝島推進委員会の委員からは、今後の活動への期待が投げかけられました。

小林委員:例えば八丈島の高校生の特産品開発などは、横連携によってSDGs軸で他県の高校生と繋がって新たなコンテンツ開発などの可能性もあると思いますし、それぞれのインサイトを分析しファン化を進めることでさらに事業に繋げていけるのではないでしょうか。

楓委員:学生のみなさんは、自分たちの提案がどのように今後バージョンアップされていくのかを見守りながら、島の広報パーソンとして多くの人々に島の魅力を伝えて島とのつながりを生んでいくような役割を果たして欲しいと思います。

矢ケ崎委員:若者の視点が加わることで事業者の方がご自身の仕事や商品の価値を再発見され、日々の原動力を得られたのではないかと思います。この経験を土台にしてさらなる取り組みを期待しています。

tokyoconference12_18.jpg

そして最後に、山田敦郎委員長は
山田委員長:原点に立ち返って、島をもっともっと元気にする活動を加速させていきましょう。今後も、皆さんと一緒に東京宝島事業を盛り上げていきたいと願っています。


と今後の東京宝島事業への抱負を語りました。

約3時間の会議も終わってみればあっという間、事業者ごとの発表は5分という短い時間にもかかわらず、その中に学生や事業者の皆さんの島に対する想いや活動への熱量を感じることができました。発表が終わり、各島から集まった事業者やこの会議に参加した学生、企業の方々は、それぞれに意見・情報交換をしていました。これからも編集部は、学生、事業者の皆さんの取り組みを追いかけつつ、東京宝島事業を応援していきたいと思います。