「第11回東京宝島会議」を開催!

島と島がつながることで可能性はどう広がるか?
第11回東京宝島会議をレポート!

東京の島にある魅力を掘り起こし、磨き上げて、発信をする東京宝島事業。各島の事業者が一堂に会する東京宝島会議では、各自の取り組みの進捗共有や、ゲスト講師による講演、グループでのワークショップなどが行われます。今回レポートするのは2023年10月30日、東京・赤坂にて開かれた「第11回東京宝島会議」。今回は「島間連携」をテーマに、アクセラレーションプログラムで取り組みを進める事業者に加え、ブランドサポーターシップに参加する事業者と大学生も参加し、リアルとオンラインを併用しての開催となりました。

<第一部 ゲスト講演>

ゲスト:鹿児島離島文化経済圏 プロデューサー  山下 賢太氏

大切なのは、観光客を呼ぶ前に

2023_all11_img_1.jpg

自分たちが幸せに暮らせる島を作ること

第一部は、鹿児島県甑島を拠点に多方面で活躍する山下賢太さんをゲストに迎えての講演です。まずはこれまでの取り組みを振り返りながら、山下さんが地域の再生に携わることになったきっかけと、そこに込めた思いについて語っていただきました。

2023_all11_img_2.jpeg

山下さん:今後100年続く日本の少子高齢化。この課題を残念だと捉えるか、チャンスだと捉えるかで、今後の生き方が大きく変わっていくのではないかと思い、14年ほど前に故郷に帰って会社を立ち上げました。まず手をつけたのは水田の再生。支援してくれる仕組みや組織が全くない中で、駐車場に竹筒を置いて無人販売を始めました。その中で気付いたのは、地域に根付いた文化やコミュニティがあり、それらは農業が育むものもあるということ。ないものを嘆くのではなく、今あるものに目を向けて、育てる。そこから島の未来を考えていくことが大切なんだと思いました。

ものづくりだけをしていても、本当の意味での地域活性化にはつながらない。米づくりから始まった山下さんの事業は「山下商店」という場所作りを経て集落再生へ。やがては宿泊施設までを手がけるようになりました。

山下さん:僕らの宿のツアーは観光地を巡ることは一切しません。提供するのは、美味しい朝食や焼酎の体験、豆腐作りの見学ツアーやキビナゴ漁など、島の日常をコンセプトにしたサービスです。いつも意識しているのは、僕らがやっているのは「観光客のための観光推進ではない」ということ。まず、自分たちが幸せに暮らせる島を作り、観光客にもその暮らしを体験してもらおう、という考え方なんです。 

島をつないで、仲間を増やし、

2023_all11_img_3.jpeg

チャレンジが生まれる仕組みを次世代へ。

その後も空き家の再生や漁師を支援するイベントなど、地域再生のために活動の幅を広げ、様々な事業を立ち上げた山下さん。そんな中、この10年の集大成として大きな必要性を感じたのが、今回の東京宝島会議のテーマにも繋がる島間連携の仕組み「鹿児島離島文化経済圏 (通称:リトラボ) 」の立ち上げでした。

山下さん:鹿児島には28の有人離島があり、約16万人の人が住んでいます。これまで課題を個別に解決しようとしてきましたが、各島の若者が集まることで大きな力になると思い呼びかけたところ、95人もの方が集まりました。一緒に行っているのは本土の事業者や専門家も巻き込んだ未来探求型のフィールドワーク。島の背景を知った上でのマッチングができるため、ここからすでにいくつかの事業が生まれ始めています。

2023_all11_img_4.jpeg

そうした努力の甲斐あってか、「リトラボ 」は現在500以上の企業が参画するほどの規模に成長。今後は「リトラボ 」に参画する企業でファンドを立ち上げて、リトラボのアクションによって生まれた利益をファンドに戻し、新たな事業にチャレンジする若者たちに利益が還元される仕組みを作っていくことが目標だと山下さんは語ります。

山下さん:島に住んでいることを理由に、僕らはたくさんのことを諦めてきました。けれど、次の世代の子たちには「島に住んでいるから、お金や技術や知識がない」といった理由でチャレンジを諦めてほしくないんです。今「リトラボ」にこれだけの参画企業が集まっているのは、島のことを応援したい、一緒に何かをやりたいという人たちを2年間で500社も作れたということ。この海域から今後たくさんの持続可能なチャレンジが生まれるように、そしてそれを外の人からは面白がって覗き込んでもらえるために、リトラボに参加する個別の事業者さんたちに伴走をして支援をしていきたい。僕らは「井の中の蛙」として、大笑いしながらこの井戸(島)の中を豊かな場所に変えていきたいと思っています。

モチベーションがなくても、アクションをする。

2023_all11_img_5.jpeg

そこから未来は生まれていく。

講演の熱気をそのままに、質疑応答の時間へ。時間の関係から質問は2人に絞られましたが、いずれの質問も熱量のこもったやり取りでした。1人目はキャラクター開発などによって八丈島の観光を促進する「七色八丈島プロジェクト」の浅沼碧海さんです。

浅沼さん:甑島や鹿児島の島が活気付いているのは、山下さん個人の持つパワーが大きい印象を受けました。今勢いがない島や地域に対して、今後どのように進んでいったら良いのかアドバイスをいただければと思います。

山下さん:僕は特別な人間ではありませんが、島をより良くしたいという「思い」を持っている人が1人でもいる限り、最後まで諦めず、その人のことを考え支援する人間でありたいと思っています。地域という名前の人はいない。1人の思いに耳を傾けて、自分に何ができるかを考える。そういったところから島の未来は変わっていくのだと思います。

2023_all11_img_6.JPG

続く「伊豆大島/東京宝島TSUNAGU」の小林祐介さんからはプロジェクトを進めていく上での「モチベーション」についての質問が。山下さんならではの哲学が垣間見えた回答は、参加者にとっても記憶に残る一節になったのではないでしょうか。

小林さん:山下さんはプロジェクトを進めていく上でのモチベーションがものすごいと感じました。様々な課題や難しい局面があるとき、どのように自身とチームのモチベーションを上げていくのでしょうか?

山下さん:むしろ自分のモチベーションに地域が左右されないことを意識しています。いい時も悪い時も、誰にとっても一定の態度でいる。モチベーションという次元で考えず、島にとってやるべきことだと思ったら、モチベーションが低くてもアクションを起こすことが重要なのだと思います。

<第二部 グループディスカッション>

グループに分かれてディスカッション。

島を結んだ「島フェス」を盛り上げるには?

2023_all11_img_7.jpg

2023_all11_img_8.jpeg

第二部は島間連携についてのアイデアを企画するグループワーク。3グループに分かれて1時間ほどのディスカッションを行い、その結果生まれたアイデアを発表し合います。グループAのテーマは「観光・交流・インバウンド」。八丈島の浅沼さんが代表として発表をしました。

浅沼さん:まずグループで話し合ったのは「島の資産を活かしたイベントにする」ということでした。八丈島のご当地ソング、青ヶ島のキャラクター、新島のバンド、大島のスポーツイベント...現存のイベントを活かして何ができるかを考えたときに出てきたのが、島をまたいだ「島フェス」のアイデアです。島にゆかりのある有名なシンガーを呼んだり、各島で声優を1人ずつ立てたりすれば、興味を持つ人も増やせます。そういった島内外のつながりを活用して音楽フェスを開催できればと思っています。

2023_all11_img_9.jpg

続いてグループBのテーマは「移住定住」。20代の若い方が多いグループということもあって、議論は白熱。発表者は「八丈島/八丈島U29プロジェクト」の持丸沙代子さん。解決したい課題を3つのポイントで説明してくれました。

2023_all11_img_10.jpg

持丸さん:まずは「移住感度の高い人」を集めることが大事という話になりました。観光で島に遊びに来る人ではなく、本当に移住して島に関わりたいという人を、島側から選んでいく。そのための説明会やセミナーを島側からどんどん開催していきたいと。また、移住を希望する若者がいても、そもそも住める環境がないことも課題なので、青ヶ島のシェアハウスなど「環境構築」の成功例を各島へと展開していきたいと思います。そして「島間連携」という観点では、移住体験の際に就航率が悪い場合、別の島で受け入れができる取り組みを進めていく必要があると思いました。

お互いを知り、共有を重ねていくことで

2023_all11_img_11.JPG

「類友」を増やしていく。

最後のグループCは最もオンライン参加者が多かったグループですが、ファシリテーターが積極的に話題を投げかけ、笑い声が絶えないのが印象的でした。「地域づくり・人づくり」という難しいテーマに対して、代表の「八丈島/リタビプロジェクト」魚谷孝之さんが話してくれました。

2023_all11_img_12.JPG

魚谷さん:色々な意見があり、限りある時間の中で議論を進めていきました。その中で気づいたのが、自分たちの島のことは知っているけど、「ほかの島のことは意外と知らない」ということ。まずやるべきは、オンラインツールなども駆使して、それぞれが今やっていること、考えていることを持ち寄り共有していく。そうして島内外に「類友」を作っていくことなんだと思います。東京宝島会議も今回は都心部での開催でしたが、次は八丈島で、その次は別の島でと、各島で開催することも場づくりになると思っています。

3グループの発表を聞いて「とても盛り上がってますね」と山下さん。加えてアイデアをブラッシュアップしていく方法について、ご自身が携わった事例を交えながらアドバイスをしてくれました。

山下さん:例えば、島の人みんながアーティストという考え方で立ち上げた奄美大島の「唄う島プロジェクト」。移住で起きがちな「住むところはあっても仕事がない」問題を解決するため、人材不足に悩む島の事業者10社の出資で立ち上げた、仕事が用意されているシェアハウス。これらのように、その場所ならではのコンセプトや課題の深堀りがあると、もう一歩踏み込んだアイデアになると思いました。自分たちのビジョンを語り合って「類友」を集めていく考え方は素晴らしいことだと思いますので、引き続き進めて行ってほしいと思います。

共感を呼ぶ「テーマづくり」の大切さ。

2023_all11_img_13.jpeg

今日の議論をその第一歩にして。

最後に本年度から新しくスタートした、大学生と事業者を結び新規事業を創出するブランドサポーターシップ事業についての説明と経過報告が行われたのち、本日の会議を振り返って、東京宝島推進委員会の各委員からご挨拶。参加者への感謝と今後の期待を込めて、エールを贈る形で締めくくっていただきました。

大洞委員:今日お話を伺って、島ごとの活動に加えて、複数の島を結びつける枠組みが必要と改めて感じました。山下さんのお話でつくづく思ったことは、本人のリーダシップや思いもありますが、何より「共感を呼ぶテーマを設定する」ことが上手なんだなと。それをみなさんで作っていくことがとても大事。今日みなさんはその第一歩を踏み出せたと思うので、これからも応援をしていきたいと思っています。

小林委員:ディスカッションでとても活発に意見が出ていて感心しました。さまざまな地域創生の会議やイベントに出席していますが、事業者の方がここまで発言をすることは珍しく思います。みなさん活発でやる気とパワーにあふれた地域なのだと思いました。自分たちから見た島の魅力と他者から見た魅力は違うので、こうしたリアルでの交流に加え、SNSやアンケートなども通じてさまざまな意見をぜひ収集してみてほしいと思います。

藤田委員:私はこれまで瀬戸内の観光促進に携わってきました。瀬戸内は地理的にも島同士が密集していて、隣の島と仲良くしようという意識がとても強い地域でした。繁忙期になると隣の島へ手伝いに行ったりと、これから人手不足になっていくときや企画を実現するときに、頼りになるのは島内だけでなく「隣の島」の存在なのですよね。ぜひみなさんも隣の島との繋がりを大切に、今日の協議の中で生まれたことを1mmでも1cmでも前進するよう挑戦していただきたいと願っています。

開催6年目を迎え、かつてない盛り上がりを見せた第11回東京宝島会議。場所を移しての名刺交換会にも多くの参加者が残り、熱い議論を続けていました。ブランドサポーターシップ事業については、学生から事業者への提案と実際に実施された様子を第12回宝島会議にて紹介いただけるとのこと。どうぞ、次回のレポートもお楽しみに。

会議のレポートをPDFを見る