冬の新島で、温かい音が響き始める。「NIIJIMA DIY 2023」開催

東京の島々に眠っている魅力を見つけ、磨き、発信する「東京宝島」プロジェクト。今回、取組をご紹介する舞台は新島です!2023 年 12 月 2~3 日の 2 日間に渡って開催された音楽イベント、「NIIJIMA DIY 2023」。「音で結ばれる宝島」をテーマに島内外から約 200 人が集まって、DIY=手作りの会場にて音楽ライブやフラダンス、ヨガ等を楽しみました。新島といえば、青い海に白い砂…と夏をイメージしてしまいがちですが、冬にイベントを開催した理由とは…?  主催者の豊泉誠さんにお話を伺いました。

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当日の動画はこちら

新島だから鳴った音、
冬だから生まれた交流。

-当日の模様を拝見しました!ライブありパフォーマンスあり、そして出店では島グルメや民芸品、シーシャバーがあったりと、盛りだくさんでしたね。アットホームな雰囲気で、幅広い世代の人たちが楽しんでいました。観客数も約200人と、人口約2,000人の新島においては盛況だったのではないでしょうか。

豊泉さん:はい。当初の想定よりも3割ほど多い観客数で、運営は裏でまさに嬉しい悲鳴を上げていました(笑)。

メイン会場となる新島スポーツ広場クラブハウスでは音楽ライブやDJプレイを行ったのですが、島内ではコロナ禍以降初のライブです。演者・観客とも大いに楽しんでいる様を見て、非常に感慨深かったですね。島外から参加したアーティストも人気曲のアコースティックアレンジなどを披露して、ともに来島したファンの皆さんと盛り上がっていました。

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新島のフラチーム・Nukima

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(左)コラボ へっぽこーず+yAmmy/ましろ (右)夢野由莉子

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新島の教員バンド・ハコブネキカク

-新島の環境、そして会場の雰囲気に合わせた演出を、アーティストとオーディエンスが一体になって楽しめたようですね。ほか、開催してみてよかった演目・企画はありますか?

豊泉さん:ヨガがとてもよかったですね。両日とも1番目のプログラムで、シンギングボウル(チベットの民族楽器。仏具の「お鈴」に似た形状で、丸棒で縁を擦って音を出す)を鳴らして、参加者全員で今回のコンセプトである「音」を共有しました。特に島外からの方にとっては、新島にやって来て最初のイベントです。冬の澄みきった空気の中響き渡った音は、日常から切り替わるスイッチになったのではないかと思います。

また、会場となったキャンプ場は丘状で、水平線を見渡せます。快晴に恵まれた 2 日目は日の出に始まり、朝日を浴びながらのヨガ体験となりました。

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ー島外から来た人にとっては、格別な非日常ですね...!冬の新島では風速 20m/s を越える日もあると聞きますが、問題はなかったのでしょうか?

豊泉さん12 月の始めは気候が荒れるやや手前ですので、大丈夫でした。とはいえやや冷えこんだため、出店ではホットワインやたたき汁(味噌汁に魚のすり身団子を入れた郷土料理) が人気でしたね。

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島焼酎や島産の塩を使ったドリンクなども提供

ーそれは温まりそうですね!島外から来られたお客さんの大半が、太平洋を一望できる温泉も堪能したと聞きました。...しかしなぜ、冬にこのようなイベントを開催しようと考えたのですか?

豊泉さん:海が最大の観光資源である新島において、冬はオフシーズンです。しかし、だからこそ島外から来ていただいた皆さんと島民で、ゆっくり交流する時間を作れるのではないか...と。閑散期ということもあって、島内では積極的にスタッフまたは観客として参加してくれた人も多く、その分交流の機会も作れました。島内外の人で会話する状況を幾つか目の当たりにして、冬に開催した意義はあったと思えましたね。

音に惹かれて移住した。
その感動を伝えたい。

ーなるほど、NIIJIMA DIYのテーマ「音で結ばれる宝島」の、「結ばれる」の部分が叶ったわけですね。一方、イベントの核である「音」に関しては、今回豊泉さんが音楽イベントを主催するうえでどのような思いがあったのでしょうか?

豊泉さん:私自身が新島への移住者で、きっかけは17年前に訪れた際に体験した音楽イベントでした。それまで様々な音楽イベントに参加しましたが、その中でも新島において、見渡す限りの海に囲まれて音を浴びた体験が、圧倒的に鮮烈で...。当時は「住もう」なんて一切思わなかったのですが、数年経って住処について思いを巡らせた際、新島で体感した音を思い出し、移住を決心しました。

私が移住した頃には、音楽イベントの形態は島外のイベンターではなく、島民が主体となって運営する「新島WAX」に代わっていました。夏の間、約1ヶ月にわたってビーチでの音楽体験の場をつくる形に進化〜定着しましたが、その活動も14年の歳月を経て終了します。新島の音楽イベントは衰退し、さらにはコロナ禍の影響で自主開催の小規模なライブ・イベントすらなくなってしまいます。音に導かれて新島に渡ってきた私にとっては、とても寂しいことでした。

新島を愛する人間として、島に人を呼んで元気にしたい。かつて私が感じたように、「また来たい」「住んでもいいな」と思える島にしたい。そのために、やはり音は欠かせない。そんな思いで、今回改めて音楽イベントを企画しました。

ーNIIJIMA DIY開催には、ただならぬ思いがあったのですね。新島といえば野外音楽イベントで知られていましたが、豊泉さんご自身が体験者であり、そして再生への思いもあった、と。

豊泉さん:はい。新島には長年積み重ねた音楽イベント開催のノウハウもありますし、今回使用したキャンプ場や、他にも野外音楽堂など、有効活用されていない施設もたくさんあるんです。それらを土台に、また「音で人を結ぶ」機会を作れるのではないかと。

今回、過去の主力スタッフは参加できませんでしたが、それでも、若い世代がスタッフとして関わり、島民で力を合わせて「自分たちでできるように・自分たちでできる範囲で」音楽イベントを開催できたことは、非常によかったと思います。

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新島のベテランバンド・THE GTLES

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ODOKe KAIWAI+ Yackle

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KANSUKE AKAIKEによるライブペインティング。キャンバスとなったTシャツはこの後販売された

音で結ばれる島にするために、
まずは自分たちが楽しめる島にする。

ー島の人材や自然環境といった資源を活かし、自分たちでできることをする。まさにDIY精神ですね!その状況を体感した来場者・演者からは、どのような感想があったのでしょうか?

豊泉さん:まず、島内からは「初めて観るアーティストが新鮮だった」という感想がありました。たとえば今回は過去にアイドル活動をしていたグループを招待したのですが、そのファンの方々も30人ほど来島されまして、「普段のライブハウスでのライブとは違って、アーティストを身近に感じられた」といった声もありましたね。アーティスト側からも「ファンの皆さんと親密になれてよかった」と言っていただきました。

ー島内の人には新しい「音」の体験を提供しつつ、アーティストとファンの絆を深めることもできたのですね。「音で人を結ぶ」というテーマを体現できた状況だと思いますが、それ以外にも島内外の人を「結ぶ」ための交流はできたのでしょうか?

豊泉さん:そうですね...、たとえば先のグループがファンミーティング兼バーベキューを開催した際、島民がサーブ役で食材を焼いたり、その場でコーヒーを焙煎して提供しました。その際の会話も盛り上がっていましたし、送迎のタイミングでそうした交流を「楽しかった」、そして「また来たい」と話してくださる方も多かったです。

そして今回、このような来島者の方たちの様子を見ているうちに、「実は新島って、こういったファンミーティング・オフ会にうってつけなのでは?」と思いました。都心のライブハウスのような空間とは対極の、開放的な空気を目一杯味わう場とでも言いましょうか...。島に来た人たちのリラックスした様を見て嬉しく思いましたし、この先もまた島を全く知らなかったような人たちに来ていただきたいなと思いました。

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-たしかに、開放感を味わうには絶好の環境ですよね!一方、島内の人間関係においてもポジティブな変化はあったのでしょうか?

豊泉さん:先にもお話ししたように、閑散期とあって積極的に参加してくれる人が多かったため、島民どうしのコミュニケーションも幾分か活性化できたと思います。久々の音楽イベントでしたし、島の人たちもどこか心待ちにしてくれていたのではないかと。

もちろん実施してみて明確になった課題もありますが、それを共有できたこと、そして「自分にはこれができる」「これはこの人に相談すれば解決できる」といった自信・確信を持てたことも、ひとつの成果だと言えます。

-その積み重ねがこの先、新島の財産になって行くのでしょうね。最後に、NIIJIMA DIY の今後をお聞かせいただけますか。

豊泉さん:嬉しいことに、現時点ですでに先のようなライブとファンミーティングのご相談をいただいています。また、今回の出演者以外のアーティストからも「次回のイベントには是非呼んでほしい」という声をいただいており、まずはこういった小規模かつ確実に運営できるイベントを継続的に開催して、ノウハウの蓄積・継承や人材発掘に繋げて行きたいです。そして、その過程で収益化できる事業を作り出すことが、最大の課題になりますね。

今回「NIIJIMA DIY」を開催することで、新島の音楽イベントを再生できたことには大きな意義があったと思いますし、まずは新島を「自分たちが楽しめる島」にして行きたいです。そしてそれを、島外の人にも楽しんでもらう。そんな「音で結ばれる」新島を、この先も DIY 精神で作って行ければと思います。

-ありがとうございました!冬だからこそ温かいコミュニケーションも生まれる「NIIJIMA DIY」に、新島の新たな音楽文化・交流体験の萌しを感じることができました。この先新島に響き渡る音を、東京宝島でも引き続き注目して行きたいと思います。