バレーボールの聖地、伊豆大島。ボールをつなげて、食でつながり、人と人がつながっていく。

東京の島が持つ魅力を様々な視点からご紹介する「東京宝島」プロジェクト。今回は、伊豆大島とスポーツの関係に迫ります。島内外から集まったバレーボールプレイヤーたちと、地元の人たちとの交流の様子を、『東京宝島-TSUNAGU-伊豆大島』代表の小林祐介さん、事務局の菊池江莉さんにお話をうかがいました。

幼いときからスポーツに親しむ、伊豆大島の風土。

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―伊豆大島ではマラソンやトライアスロンの大会が開催されていて、スポーツツーリズムの目的地としても知られています。島のみなさんもよくスポーツをされるのでしょうか?

小林さん:そうですね、スポーツが好きな人は多いかもしれません。毎年秋に開かれる大島町の大運動会には、子どもからお年寄りまでたくさんの島民が参加し、玉入れや100m走に挑戦しています。年齢を問わず、みんな真剣勝負。ひと昔前の日本のような光景ですね。

菊池さん:私も生まれたときから両親がスポーツをしている姿を見て育ちました。島では、とくにバレーボールと野球の競技人口が多く、私も高校時代はバレー部でセッターを務めていました。私の通った大島高校の女子バレー部は、都内でも活動が盛んなことで知られています。

―島全体で、スポーツをする文化が根付いていますね。これまでに実施した、スポーツをテーマにした取り組みがあれば教えていただけますか?

小林さん:20228月に、「大島まるごとバレーボールDays」というイベントを2日間にわたって行いました。元バレーボール日本女子代表監督の中田久美さんをはじめとしたゲストコーチをお招きし、島内の小学生から高校生が集まって練習や試合を行いました。試合では、中田さんが丁寧に指導や監督をしてくださり、子どもたちに夢を与えてくれました。

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菊池さん:子どもから大人まで、みんなが一体となって前のめりにイベントの運営を手伝い参加していたんです。それを見た中田さんから、「学校や年齢などを超えてお互いを応援し合ったり交流したりする連帯感は、この島の素晴らしい伝統ですね」と、嬉しいお言葉をいただきました。
島内にある小学校は3校、中学校が3校だけ。各校のバレー部の人数が少ないので、都内の試合に出場するときは連合チームのような形で試合に出場します。だからこそ島の子どもたちは、他校のチームでも自然に応援できるんです。

小林さん:このイベントがきっかけで、島を訪れた人にもっと島の魅力を体感してもらえないだろうか、という思いが生まれました。そこで、昨年8月には嘉悦大学の学生さんを招いて、「バレーボール島キャンプ」という合宿を行いました。嘉悦大学バレー部の皆さんたちと島の小中高生が合同練習をするプログラムが主体でしたが、それ以外にも、学生さんを島の住民がホームステイの形で受け入れたり、みんなで野菜の収穫体験をしたりと、いろいろな面で島の魅力が伝わるような体験も盛り込みました。

「スポーツをすることで、
素敵な大人になれる」
未来を描いたバレー合宿。

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―ホームステイや収穫体験、島の魅力がたっぷり味わえそうですね。招いた大学生たちだけでなく、島の子どもたちにとってもいい経験になりそうです。

菊池さん:はい。島には大学がないので、多くの子どもたちが大学生のお姉さんたちと接するのは初めて。とくに、普段はリーダー役として下級生たちを指導している高校生にとっては、自分たちが教わるという体験がとても勉強になったと思います。

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来てくれた学生さんたちは、驚くほどコミュニケーション能力が高い。バレーを教えている最中も、小学生が相手だと同じ目線まで下がり、中学生だったらまずちょっと面白い話から入るなど、相手に合わせて声をかけていました。なかなか大人でもあそこまではできません。島の子たちにとって、「嘉悦大学」という名前は強く印象に残ったと思います。

小林さん:島中のみんなが知り合い、という環境の中でずっと暮らしているせいか、島の子どもたちはちょっとシャイなところがあります。外に向かって自分からガンガンいくようなことが苦手な子が多いんです。でも、島の外から訪れる方が、「もっと上手くなりたいなら自分からコミュニケーションを取らないとね」というスタンスを見せてくれました。「スポーツをすることで素敵な大人になれる」という、身近なロールモデルとして憧れの存在になったと思います。

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"島ならでは"の魅力がつまった
海辺でのスポーツ体験。

―その後に行われたビーチバレー合宿も、海に囲まれた伊豆大島の特色を生かしたスポーツ企画ですね。

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小林さん:オリンピアンの村上めぐみ選手をお招きして、昨年の冬に行いました。バレーボールとは違う競技ではありましたが、小学生から高校生のバレーボールチームに募集をかけたところ、2日間で合計70名以上が参加してくれたんです。

天気に恵まれて半袖で気持ちいいぐらいの陽気だったのですが、1日目は冬特有の強風にあおられてネットが倒れてしまったかと思えば、逆に2日目はピタッと風が止むなど、自然の中でのスポーツらしい面も感じられました。元々、ビーチバレーは風の流れを読むことも含めて戦い方を考えないとならない競技。村上選手は1日目と2日目の練習メニューを、天気に合わせて変えてくださって、「強風の日と穏やかな天候の二つを経験できたのが良かった」とおっしゃっていました。

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菊池さん:島の特色を生かしたスポーツを実験的にやってみたいという狙いがあったんです。島にビーチバレー部があるわけではないので、大人も子どもも、ほぼ初体験での挑戦です。ビーチバレーのコートは、大島にはありませんが、神津島と新島には常設しています。住民が少ないので、スポーツ人口も減ってきているという島同士の共通の課題もあったので、海外でも人気のビーチバレーを、一緒になって"島のスポーツ"として盛り上げていくのも面白いんじゃないかと考えています。

バレーボールを入り口に、
島が秘める魅力をたっぷり伝えたい。

―美しい海と浜で行うビーチバレーは、いかにも気持ちがよさそうですね。参加者の皆さんの感想はいかがでしたか?

小林さん:昼食で出した「スポーツ弁当」が、とっても美味しくて好評でした。島の野菜をふんだんに使ったメニューになっていて、ほかにも大島牛乳を使ったクリームコロッケが入っていたり、近海で獲れるトコブシという貝をごはんに混ぜたり。食を通じても、島の特徴を感じてもらえたと思います。

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島で人気の「STARFISH AND COFFEE」「御神火(ごじんか)茶屋」という2つの飲食店に開発してもらったんですが、本当に楽しそうにメニューを考えてくださって、事業による島内の横のつながりの可能性も感じました。


―スポーツを楽しむことをきっかけに、島の魅力を知ってもらうことにつながっているのがよく分かります。

菊池さん:嘉悦大学の学生さんが来たときは、島で野菜をつくっている篠崎農園さんの畑で、島の子どもたちと一緒にオクラやきゅうりの収穫体験もしてもらいました。

収穫するときには農家さんが、「オクラは上を向いて育つんだよ」「トゲがあるから気をつけて」などの野菜に関する豆知識も披露してくれました。

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小林さん:宿泊先も、島で暮らす7つの家庭にホームステイとして受け入れてもらい、我が家にも泊まってもらいました。この企画、実は嘉悦大学の濱口監督が、学生時代に島でホームステイをした経験をお持ちだったことから生まれたんです。バレー部の学生さんたちは、普段は皆さん寮生活なんですよね。だから余計に家庭の暖かさを嬉しく感じてもらえたんじゃないかと思います。

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スポーツを入り口にすることで、プレイヤーだけでなくイベントに関わるすべての人たちとのつながりが生まれることを実感しています。これからも、人と人との交流をつくることで、島の魅力を島の内外へと広げていく活動を続けていきたいと思います。

―伊豆大島の、スポーツ文化、食の魅力、人々の温かさがとてもよく伝わるお話、ありがとうございます。

取材を通して伊豆大島は、スポーツをする人、サポートする人、すべての人がつながりあっていける懐の深い島なのだなという印象を持ちました。スポーツの新しい親しみ方を生み出す、島のこれからが楽しみです。