個性豊かな杜氏たちがつくりだす「東京ISLANDS SPIRITS」で、島の風土や歴史を味わう。

東京の島が持つ魅力を様々な視点からご紹介する「東京宝島」プロジェクト。今回は、伊豆諸島と小笠原諸島でつくられる魅力的な「島酒」が生まれた背景と、その杜氏たちが集まった体験試飲会の模様についてお話をうかがいました。

島の暮らしを支えてきた日常酒が、
島の魅力を伝える銘品に。

―東京の島でつくられているお酒、「東京ISLANDS SPIRITS」とはどのようなお酒なのでしょうか。

伊豆諸島や小笠原諸島でつくられる蒸留酒のことです。伊豆諸島では主に焼酎が、小笠原諸島ではラム酒が、古くから「島酒」として島民から親しまれているんです。今でも12 の作り手が、それぞれの島の特徴を生かした個性豊かなお酒をつくり続けています。
元々は島民の日常酒として島内で楽しまれることが多かったんですが、最近では焼酎愛好家の方々などを中心に知名度が高まっていて、島外のお店でも楽しめるようになってきています。

-東京の島にも酒蔵があるというのは少し意外でした。なぜ、お酒がつくられるようになったのでしょうか?

江戸時代に丹宗庄右エ門(たんそうしょうえもん)という鹿児島の商人が八丈島で芋が栽培されていることを知り、九州の焼酎づくりを島民に伝授したのが始まりだと言われています。当時、島では米が貴重だったので、米麹の代わりに麦麹を使う製法が根付き、「麦麹で仕込んだ芋焼酎」という珍しいスタイルが現在まで受け継がれています。麦麹特有のさわやかな香りと芋の旨味のバランスがとれているのが、島焼酎の特徴なんです。

19shimazake_1.JPG蔵元視察の様子(坂下酒造有限会社)

-九州が芋焼酎で有名なのは知っていましたが、それが伊豆諸島の島酒の起源でもあったんですね。小笠原諸島でラム酒がつくられているということにも、驚きました。

1876年に小笠原諸島が日本領土になったとき、亜熱帯の気候を活かしてサトウキビから採れる製糖業が盛んになりました。その副産物を発酵・蒸留した酒を「糖酎」「蜜酒」と呼んで島民が飲むようになったのが、小笠原のラム酒製造のはじまりです。
その後、第二次世界大戦でいったんラム酒文化が途絶えてしまったのですが、終戦後の1968年に小笠原諸島が日本に返還されると、島民の日常酒として需要が復活しました。1989年には、小笠原ラム・リキュール株式会社が設立されて、地酒としてのラム酒が生まれることになったんです。



個性豊かな東京の島々を、
味覚で感じる参加型イベント。

―島酒が生まれた歴史を知ると、ますます実際に飲んでみたくなりますね。2024年2月25日に行われたという体験イベントについてもおうかがいできますか。

「伊豆諸島、小笠原諸島で受け継がれてきた東京の島酒の魅力を味わう」をテーマに、東京ISLANDS SPIRITSの試飲体験交流会を東京・麹町で開催しました。当日は、島で酒づくりを行っている酒造メーカーや、都心で島酒を取り扱ってくださっている酒販店さんや焼酎の目利きとして有名な飲食店さんなどに協力してもらい、蒸留酒に合うおつまみと一緒に14種の東京ISLANDS SPIRITSを大勢の方々に楽しんでもらいました。
おつまみには「くさや」「島トウガラシ」「うみかぜ椎茸」「明日葉」の4種の島食材をふんだんに使ったオリジナルのメニューを飲食店さんのご協力のもと提供しました。島酒と合わせて、味覚で島の魅力を存分に味わってもらえたのではないかなと思っています。

19shimazake_2.JPGイベントで提供したオリジナルおつまみ。上から「島唐辛子使用の自家製スモークベーコン」「明日葉を使用したバター」「焼きくさや」「うみかぜ椎茸の焼き浸し」

―島の食材もなかなか手に入りにくい珍しいものばかりなので、ペアリングで楽しめるのはとても貴重ですね。島外に島の魅力を伝えるよいきっかけになったのではないでしょうか。

当日はステージイベントも行い、全12の作り手に自分たちがつくる島酒を紹介してもらいましたが、それだけではなく、実際に島の蔵元へ訪ねた酒販店の方やバーテンダーさんに、東京の島酒の魅力を語っていただくトークセッションも行ったんです。お酒を消費者に届けるプロの視点で、つくり手ごとの島酒の違いや独自性、地域性などのお話が聞けたので、お客さんもとても興味深く聞いてくださったと思いますが、私たちが聞いても新しい発見がありました。
近年、杜氏の世代交代が進んでいることもあり、各酒蔵が固定概念にとらわれない酒づくりに取り組んだり、クラフトジンやお茶のつくり手ともコラボレーションしたりと、外部と一緒になって新しい島酒の魅力を追求しています。これからも、もっと幅広い人たちに島酒を通じて島の魅力を知ってもらえたら嬉しいです。

19shimazake_3.JPG

第一部トークステージの様子。左奥から株式会社内藤商店 東條様、籠屋 秋元商店 横山様、右手前から株式会社宮原 宮原様、有限会社おくやま 奥山様。

―観光地としてのイメージが強い伊豆諸島や小笠原諸島ですが、そこでつくられている島酒にも興味が湧くお話を、ありがとうございました。


生活と食は切っても切り離せないもの。島でつくられる「東京ISLANDS SPIRITS」には、そこで受け継がれてきた文化や風土、住む人たちの生活が色濃く反映されています。実際に現地に足を運ぶのが難しくとも、味覚で離島に思いを馳せてみるのもいいかもしれませんね。