あおちゅうツーリズム開催レポート(後編)

2019年12月初旬、青ヶ島の焼酎「あおちゅう」の魅力を体感する「あおちゅうツーリズム」が開催されました。「あおちゅうツーリズム」は、「あおちゅう」への理解を深め、応援してくれる仲間を増やすことを目的として企画され、2019年度は酒類や食の専門家とメディアを招いたモニターツアーとして実施されました。
八丈島と青ヶ島を巡りながら島と焼酎との関わりや歴史を学び、青ヶ島酒造の工場で焼酎の醸造過程を見学、青ヶ島限定の焼酎「初垂れ(はなたれ)」を味わった「あおちゅうツーリズム」の様子をレポートします。
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「あおちゅう」が生まれる焼酎工場へ

青ヶ島酒造の工場では、自然麹仕込みの「あおちゅう」を造る杜氏の一人・菊池正さんの焼酎造りを見学。ツアー参加者で本格焼酎の専門家である鮫島吉廣先生は、「自然麹のあおちゅう造りは、江戸時代の焼酎造りと同じ昔ながらの手法」だと感動。

島の野生の菌で造った麹と蒸したサツマイモを仕込み、発酵させたもろみを蒸留するのが大まかな製法ですが、麦麹と芋の配合など、杜氏によって独自のレシピがあり、味わいも多様です。工場では12銘柄ある焼酎の飲み比べも体験。参加者からは「同じあおちゅうでも杜氏が違うと、こんなにも味わいに違いがあるんですね」と驚きの声が。青ヶ島に来た人だけが飲める度数60度の青ヶ島限定焼酎「初垂れ(はなたれ)」も試飲し、その鮮烈な風味を味わいました。

蒸しあがり、仕込みを待つ青ヶ島産のサツマイモ

杜氏の菊池正さんによる、発酵が進むもろみの櫂入れ

自然麹の「あおちゅう」。工場で試飲購入可能(要予約)

青ヶ島限定の「初垂れ」は、島内居酒屋や民宿でも提供中

島の民俗文化と「還住」の歴史に触れる

工場見学に続き、外輪山の尾根を歩き、島の守護神を祀る「東台所神社」へ。周囲には玉石が積み上げられ、海の神様など大小様々な祠が並びます。八丈島の大里集落で見たよりも不揃いな玉石は、1785年に起こった天明の大噴火から半世紀を経て青ヶ島に還住(※)を果たした住民らが海岸から断崖絶壁を登って運び上げ、一つひとつ積み上げたもの。説明を受け、参加者からは「玉石から島人の想いを感じる」との声が聞かれました。
※還住......天明の大噴火による全島避難を経て、50年後に島民全員が青ヶ島へ帰還した歴史を指す。民俗学者の柳田國男が『青ヶ島還住記』として記し、「還住」の言葉が定着した

東台所神社は縁結びの神様としても祀られている

麓にある「佐々木次郎太夫(ささきじろうだゆう)の墓」は、東京都の指定史跡。苦難の末に八丈島から青ヶ島への還住を果たした名主・佐々木次郎太夫をはじめとした歴代の名主たちが眠る墓所です。

東京都指定史跡、佐々木次郎太夫の墓

島の大地から噴き上がる蒸気が湧く地へ

昼食は、池の沢の中心にある小火山「丸山」の麓へ。「ヒンギャ」と呼ばれる噴気孔から湧いてくる、地熱に温められた高温の蒸気を利用した地熱釜でサツマイモや卵、くさやなどを蒸していただきました。付近には地熱の蒸気を利用した製塩所(見学不可)や入浴施設の「ふれあいサウナ」もあり、島民の憩いの場になっています。

地熱に温められた高温の蒸気を利用した天然の調理場、地熱釜

丸山の麓など、島内の地熱の高い場所にはサツマイモの苗を促成栽培するための苗床があります。昔から、島の人々は自然の力を恐れながらも利用して暮らしてきました。

島の大地から蒸気を噴き上げる「ヒンギャ(噴気孔)」

昼食後は、「丸山」を散策。山岳信仰の地とされ、山頂には「お富士様」が祀られています。丸山を中心とした池之沢地区は、火山の噴火を恐れた島民が神聖な場所とし、かつては妊婦や月経中の女性、喪中の人は立ち入りを禁じられていたといいます。

山頂に祀られる「お富士様」

かつての名主たちの住居「名主屋敷跡」

続いて、島内でも風の当たりにくい休戸(やすんど)地区へ。「名主屋敷跡」は代々の名主が居住した場所で、青ヶ島へ還住を果たした際のリーダー佐々木次郎太夫の屋敷がここにありました。建物は現存していませんが、玉石垣や神聖な場所に植えられるというソテツの木などが、往時の名残を留めています。

端正な玉石垣が張り巡らされた名主屋敷跡

郷土芸能体験「還住太鼓」

青ヶ島の郷土芸能体験として、ガイドの荒井さんが主催する「還住太鼓」も体験しました。八丈太鼓をルーツとしたもので、昔から島の宴会には焼酎と太鼓が欠かせない存在。両面を打ち合う太鼓で、今回は荒井さんが一定のリズムを刻み、参加者が交代しながら回し打ちをしました。参加者が思いのままに叩くうちに、ノリノリで叩く人、気配を消す人など、それぞれのスタイルが感じられ、互いに笑顔がこぼれました。

太鼓で会話するような体験「還住太鼓」

「金比羅神社」で帰路の交通安全を祈願

ヘリポート近くの「金比羅神社」は、かつての漁師たちの守り神で、現在は交通の神様として祀られています。参加者一同、ここで青ヶ島に来られたことを感謝し、帰路の安全を祈りました。

金比羅神社では帰路の安全を祈願

「あおちゅうツーリズム」では八丈島と青ヶ島を巡りながら、火山とともに生きてきた青ヶ島の歴史や自然を学び、「あおちゅう」への理解を深めました。これからも、さらなる「あおちゅう」の魅力発掘やファンづくりに向けた取り組みが進められていきます。