スタディツアーレポート Dコース(御蔵島)
Dコースは、2日間に分けてスタディツアーを実施。1日目はカフェを通じたコミュニティづくりを行う「CAFE&HALL ours」を訪問し、「流動創生」を提唱する「FlowLife Laboratory」代表の荒木幸子氏、『伊豆食べる通信』を運営する特定非営利活動法人NPOサプライズ 代表理事 飯倉清太氏にヒントをいただきました。2日目は森の地産地消にチャレンジする、森と踊る株式会社を訪問しました。
街にコミュニティを生む地域交流施設「CAFE&HALL ours」
CAFE&HALL ours(カフェ&ホールアワーズ)は、カフェと集会室という二面性を持つ品川区の地域交流施設。カフェを通じたコミュニティ作りを行う株式会社WAT(ワット)が運営する空間で、地域の住民やオフィスで働く人が気軽に利用できるカフェを併設し、その利益を施設の運営費に充てています。
施設周辺の地域はかつての工場地帯。6〜7年前にオフィスビルやマンションが建設されましたが、街に新しく移り住んできた人が多く、地域住民の地域への愛着が弱い点や、つながりが希薄な点に課題がありました。そこでWATは、地域のみなさんに飲食やワークショップなど集まりの場としてこの施設を日常的に活用してもらい、街にコミュ二ティを生むことを目的に運営しているそうです。
施設は3区画あり、それぞれパーテーションで仕切れることができる構造。入り口に面した1区画は常設のカフェ、その他の区画は貸しスペースとして、ワークショップやヨガ教室、展示会など様々なイベントに利用されています。
質疑の中で、参加者からイベントのPRについて質問がありました。最初はウェブサイトやSNSを中心にイベント情報を発信していたところ、地域の方にしっかり情報が届いていないように感じたため、この施設のガラス窓に案内チラシを張り出したり、保育園や近隣施設、地域の掲示板などに掲示したりと告知方法を工夫。アナログな方法ですが効果はあり、地域の方のイベント参加が増えたそうです。
流動創生「場所や組織に縛られない、多様で新しい生き方・暮らし方」
続いて、FlowLife Laboratory 代表の荒木幸子氏による「流動創生」の講義がスタート。
流動創生とは「場所や組織に縛られない、多様で新しい生き方・暮らし方」を提案する活動で、福井県南越前町の「地域づくり事業」として、都市部でのイベント企画の他、以下の2つの活動を柱に、荒木氏が企画・運営を行っています。
①StopOver(ストップオーバー)
南越前町のシェアハウスに無償で滞在し、農作業などの地域住民の暮らしや生業を手伝いながら、相互理解を深める滞在企画。これまでの主な仕事は、田んぼの作業、つるし柿作り、地域の運動会の準備など。
②RoundTrip(ラウンドトリップ)
全国各地を巡って地域住民の暮らしや生業に触れ、自分にあった「流動的なライフスタイル」を模索する旅の企画。少人数制のため地域の方との関係性が深く強くなるのが特徴で、これまで4年間で5回実施されている。今年の9月にも実施予定。
質疑では、「企画に参加し滞在する間、地域の仕事がない事はあるか?」「参加者は労働者として考えられるのか?」「アルバイト代は出るか?」といった質問が出ました。荒木氏は「時期的には農作業や地域の仕事がないときもありますが、その際は地域の人と関わる機会を積極的に作るようにしています。また、参加者の労働力を前提にして地域の仕事を回しているわけではありませんが、外部の方に参加してもらうことで田植え作業などに見知らぬ人がいる楽しさ、新鮮さが生まれるメリットがあります。賃金に関しては作業内容や時間により時給の相談もありますが、お金ではなく野菜などの現物支給というパターンもあります」と答え、地域の人との関係性を見つつ、ギブ & テイクの良い着地点を都度見つけていると説明しました。
媒体発行だけでは儲からないけど、「儲けられる仕組」を作り出した『食べる通信』
続いて、特定非営利活動法人NPOサプライズ 代表理事 飯倉清太氏による『伊豆食べる通信』に関する講義がスタート。
飯倉氏の『食べる通信』(※)との出会いは2014年。静岡県内のジェラート販売店を経営していた飯倉氏は、『東北食べる通信』を始めた高橋博之氏との出会いをきっかけに、『伊豆食べる通信』の活動を開始。
(※)生産者と消費者を情報でつなぐ食材付き購読紙。『東北食べる通信』から始まり、現在は全国独自の『食べる通信』が発行されている。
しかし、『伊豆食べる通信』を始めるにあたり、スタッフの割り当て、作業量、ライティングや編集の技術、事業の収益化など課題は山積みだったそうです。加盟料やシステム使用料も必要で、仕組みを知れば知る程、購読者が増えないと儲からないと感じ、同誌で儲けることから自分たちの広告媒体として捉えることに考えをシフト。
そこから「2017グッドデザインしずおか」を受賞したことをきっかけに媒体自体の露出が増え、編集者のスキルが向上。つながりが増え、信用度が上がり、仕事の依頼が増えるという好循環につながったそうです。『伊豆食べる通信』だけでは儲けられないけれど、同誌を作った結果、編集者がしっかり仕事をもらえるほどのスキルを身につけた好事例として紹介されました。
自分たちとの暮らしとファンとのつながりを考える「森と踊る」
翌日、都会と人の中に森を育み森の地産地消にチャレンジする、森と踊る株式会社を訪問しました。代表取締役の三木一弥氏と妻の香奈子氏ご夫妻に出迎えていただき、三木夫妻らが整備した未舗装路を歩くこと約10分。道中、皮むき間伐(※)で切り出した丸太などの説明を受けつつ、会社の管理する森に到着しました。
(※)竹ベラを使ってヒノキやスギの皮をむき、立ったまま天然乾燥(立ち枯れ)させることで、森に光を入れ、その材を利用しやすくする。6次産業化(林業の高付加価値化)する間伐手法。
国内林業の衰退と共に山が放置されている現状を知り、サラリーマン時代に間伐体験会に参加したときの「木を倒した時に、ぽっかり空が開いたリアル感」が忘れられず、気が付いたら会社を辞めてきこりになっていたという三木氏。2016年に現在の会社を設立し、高尾の荒廃した人工林をフィールドとした、間伐をメインとした事業をスタートしました。4年目の現在は、森を育むことにより主眼を置き、間伐や道作りをはじめ、土の中の空気・水の流れも含めた森全体の再生に注力しています。同時に、森の再生につながる体験イベントや、森の木や竹を生かしたクラフト作りイベント、企業の幹部研修など、森の空間や素材使った体験事業も展開。昨年には製材所も購入し、5名という小規模経営ながら、森の木を市場を通さずに自ら製材・加工し、材木としての提供や時には施工まで行っているそうです。
地元の製材所を譲り受けるために必要だった資金は有志からの寄付で賄ったそう。融資ではなく無償の寄付にこだわったのは、見返りなしに「森と踊る」の志に共感してくれる人たちの応援や、繋がりを大切にしたかったから。
「何もない、知らない」から沢山の試行錯誤を繰り返しながら進んできたからこそ、日々、森から様々な「学び」や「気づき」を受け取ってきたという三木氏。
今年からは、その体験をより多くの人と継続的に共有していくために、「食べられる森をつくろう!」を合言葉にした学びの連続プログラム「食べ森クラブ」もスタート。大人も子供も、みんながやりたいことに自由にチャレンジする、新しい森と人との関わりが始まっています。
今では譲り受けた製材所の先代も折に触れてさまざまな知恵を教えてくれるようになったり、森に道ができた影響で、近隣住民も森を散歩するようになったりと、地域との信頼関係を築きながら好循環をもたらしていると言います。
最後は6人組の輪になって手をつなぎ、1本の木を囲みました。これは、500年後に大きく育ったヒノキの木の幹の太さに相当するとのこと。何世代にも渡って維持管理された立派な木のイメージを共有しました。御蔵島から訪れた参加者に向けて、「理想像から逆算した活動」の重要性を説いた三木氏。「やりたいことを始める勇気は誰にでも生み出すことができる」と締めくくりました。