スタディツアーレポート Cコース(式根島)

Cコースは、「まち全体をホテルに見立てる」コンセプトのホテル「hanare(ハナレ)」と、高級海苔弁を販売する「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」、食・学び・働き・エコ・宿泊がコンセプトの空間「COMMUNE 2nd(コミューンセカンド)」の3つを訪問しました。

まちぐるみで宿泊客をもてなす。「hanare」

まず初めに訪問したのは、「hanare」です。ここは東京・谷中に位置する宿泊施設で、一つの建物の中だけで完結したホテルではなく、まち全体を一つの大きなホテルに見立てた、「地域と一体になったホテル」です。

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スタッフの案内で、宿泊棟の外観を見ながら「hanare」のレセプションがある「HAGISO(ハギソウ)」や、料理教室やメイク講座など、まちの人たちが気軽に学べ、 先生たちが自分なりに教えることができる「まちの教室 KLASS(クラス)」を見学しました。そして、これらの施設の企画運営を担う設計事務所、「株式会社HAGI STUDIO(ハギスタジオ)」の田坂創一氏から、事業設立の経緯、事業内容の説明を受けました。

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レセプションがある「HAGISO」の建物は、元々は寺院経営の下宿「萩荘」で、アパートをリノベーションし、カフェやギャラリーを併せ持つ"最小文化複合施設"として、2013年に運営をスタート。2015年に「まちを一つのホテルに見立てる」をコンセプトとした宿泊施設「hanare」が完成。銭湯や、飲食店、雑貨屋やレンタバイクショップなど、地域の施設と協力し、宿泊者にまち全体を楽しんでもらうサービスの提供を始めました。

「HAGISO」の2階はコンパクトな空間にホテルのレセプションの他、ソファのあるラウンジやオリジナルグッズの販売コーナーを併設しており、書類などは昔ながらの薬箱を活用した引き出しに収納。オリジナルのマップは、「本当に紹介したものだけを載せたい」と独自に作成しているそう。

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「hanare」の年間稼働率は平均7割程度。1・2月以外は繁忙期で、最高は今年の4月で9割以上を記録したとのこと。利用者は7割が外国人で、「谷中のまちを楽しみたい」という方が多いとのこと。

参加者からは「それぞれの場所で営業しながら、複合施設として運営できる点に可能性を感じた」という意見が出ました。

「冷たいけど温かい」。刷毛じょうゆ 海苔弁山登り

続いて向かったのは、一日1,000個以上もの海苔弁を販売する「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」。日本ならではの「弁当文化」を大切にし、冷めても美味しく、家庭料理の最上級を目指した「冷たいけど温かい」がコンセプトの海苔弁専門店です。

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2017年4月に初の店舗であるGINZA SIX(ギンザシックス)店をオープンし、続く同年10月に築地店がオープン。食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo(スープストックトーキョー)」でも知られる、「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」を運営する株式会社スマイルズの蓑毛萌奈美氏にお話を聞きました。

「事業の成り立ちの特徴は、市場動向や事業性ではなく、"こんなものがあったらいいな"とか"こんな悩みを解決したいな"という誰かの発意から生まれること。海苔弁専門店も、現事業部長の想いから生まれました」(蓑毛氏)

今やコンビニでお弁当を買えば温めることができ便利な世の中になっていますが、一昔前まではお弁当は冷めた状態で食べるのが普通でした。蓑毛氏は、「冷めていてもおいしく感じるのは、お母さんや作り手の想いやぬくもりを感じられるから。だからこそ『刷毛じょうゆ 海苔弁山登り』は店舗で一つひとつ手作りすることにこだわっています」と同店のお弁当へのこだわりについて語りました。

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箸でスッと切れる海苔の選定や、さめても美味しく食べられるお米にもこだわって作っている他、卵焼きの焼き色はあえて焦げ目をつけ、手作りの温かみを演出。おかずは海苔ごはんの上に直接のせています。

また、同社は人口300人ほどの島、瀬戸内海の豊島で、泊まって鑑賞して楽しむ体験型アート作品として「檸檬ホテル」を展開。築90年の古い民家を活用して、1日に受け入れる宿泊客はなんと限定1名。"こんなものがあったらいいな"という、同社のブランディングを体現したホテルの在り方に、参加者は興味津々の様子でした。

商業施設ではなくリアルなプラットフォーム「COMMUNE 2nd」

最後はCOMMUNE 2ndへ。食・学び・働き・エコ・宿泊をコンセプトに、屋台・イベントスペースなどを併設し、様々な人々が集い文化を育む空間を作っています。

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国道246号線に面して間口が狭く奥まった変形のL字形で民間では手が出しづらい土地を、独立行政法人都市再生機構(UR)が取得し、2年間限定の暫定利用で貸し出しています。運営委託を受けたメディアサーフコミュニケーションズ株式会社は、6年に渡り契約を更新しながら「246COMMON(246コモン)」「commune246(コミューン246)」「COMMUNE 2nd」と施設名を変え、現在スモールベンダーと呼ばれる11事業所、仮設建築3棟で営業しています。

本来は商業利用がしにくい場所ですが、高さのないトレーラーやコンテナを利用することで建築コストが安く済むとのこと。参加者は、クラフトビール専門店やコーヒースタンド、うどん専門店にスペイン料理などの屋台を思い思いに見学して回りました。

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見せ方が下手ではうまくいかない

3カ所の視察先を巡ったあと、参加者からはデザインの重要性について意見が飛びました。ある参加者は「どんな事業にしても、見せ方は式根島の課題だと思う。いいことをやっていても、見せ方が下手ではなかなかうまくいかない。そこ(デザイン)を重視する価値はある」と指摘。また別の参加者は「大工に発注するときも、デザインの分かる大工と、そうでない大工とでは同じ金額でも全然違うものになる」といった意見を挙げ、今回のスタディツアーで得たヒントを共有しました。

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