スタディツアーレポート Eコース(青ヶ島)
Eコースは、2日間に分けてスタディツアーを実施。1日目は震災以後注目を集めているコンテナハウス会社「IRON HOUSE TETSUYA(アイアンハウス テツヤ)」、2日目は、限定された人しか利用できないお店の仕組みやノウハウを知るため東郊住宅社が運営する食堂「トーコーキッチン」を訪問しました。
「IRON HOUSE TETSUYA」のコンテナハウス見学へ
スタディツアー1日目、参加者一同は都心から電車で約1時間かけて八王子市の高尾へ。そこから車で約10分の閑静な住宅街の中に、コンテナで作られた「IRON HOUSE TETSUYA」のモデルハウスがありました。 迎えてくれたのは販売代理店 ジェントルライフの仲座知秀氏。
「IRON HOUSE TETSUYA」のモデルハウスは1階がカフェ&バー、2階が住居スペースの造り。2階には2つのベッドルームとバス・トイレ、ウッドデッキがあり、カーペットが敷かれた約6畳程度のベッドルームは、1人暮らしが可能な広さ。いわゆる普通の部屋に「室内は全くコンテナっぽさがないね」「プチ集合住宅ができそう」と参加者が驚く場面も。
日本で一番人口が少ない村である青ヶ島。島外からの移住者を受け入れたいと考えても、住居が少なく、受け入れらない状況です。この住居問題は島の存続にも関わる一方で、島への資材運搬に伴う高い建築コスト、作業の人手不足、用地調達の難しさなどが重なり、住宅を建てたくても建てられないといのが現実。参加者がコンテナハウスに興味を持ったきっかけも、鉄筋コンクリート建築よりもコンテナハウスを建てる方が安価に簡便に家を建てられ地主の理解も得やすいのではという考えがあってのこと。
住宅以外の活用方法も。コンテナハウスに広がる可能性
青ヶ島の住宅の歴史について話に挙がる場面も。昔の青ヶ島の家は縁側があり、人が集まれる場所がありましたが、今の青ヶ島は台風に飛ばされないことが重要で、鉄筋コンクリート建築がメイン。コンクリートの擁壁(※)がある家も多く、仕方がないとはいえ、外から閉ざしたデザインは、島の風土に溶け込む軒の低い木造の伝統家屋とは異なる建築様式です。コンテナを組み合わせることで、再び人が集まれる場所を作れるのではないかと、まだ見ぬ新しい島の風景に参加者が思いを馳せる一幕もありました。
(※)ようへき。崖などの崩壊を防ぐための「土留め」として、コンクリートブロックや石などを使った「壁状の構造物」のこと。
そこから派生し「今まではコンテナハウスをあくまで住宅として考えていたけれど、コミュニティスペースやポップアップストアなど人が集まれる場所として使えるのでは?」といったアイデアが出るなど、コンテナハウスの導入シーンの話で盛り上がりました。
最後は、導入する際の費用、今後コンテナハウスを導入予定の用途(ショッピングモール、大学寮)などを伺いました。
部屋で使うカードキーでのみ扉が開く入居者向け食堂「トーコーキッチン」
有限会社東郊住宅社 代表取締役社長 池田 峰 氏にご案内いただき、池田氏自らカードキーを使って扉を開閉し、店への入り方を実演。
ここは、神奈川県淵野辺の賃貸物件を取り扱う「東郊住宅社」が展開する食堂で、同社と契約した入居者をはじめ、物件オーナー、協力会社、内装会社、銀行など、東郊住宅社に関わる人たちだけが持つカードキーを使って入店できます。訪問した平日のランチタイムは、大学生がグループでお喋りをしていたり、スーツ姿の社会人が昼食をとったり、オーナーさんがコーヒーを飲みに立ち寄ったり、様々な人が訪れ賑わいをみせていました。
「トーコーキッチン」は池田氏自らが考案した入居者サービスとしての食堂です。不動産屋が始めた「入居者だけが入れる食堂」について、最初は社員からも疑問の声が挙がりましたが、考案者の社長はいたって大真面目。自信の背景には食事付き学生マンションに対する需要の高まりがありました。
JR淵野辺駅周辺には青山学院大学、桜美林大学、麻布大学と3つの大学が集積。東郊住宅社の管理物件に入居する人達に利便性と健康的な食生活の提供を目指し、2015年にオープンしました。大学生からの需要にヒントを得て始めた食堂でしたが、今後は高齢者やシングルペアレントからのニーズ拡大も視野に入れているそうです。
成約率が上がって家賃交渉が減った。閉じられたコミュニティの先にある安心感
池田氏はトーコーキッチンを「食でつながるリアルSNS」と語り、利用者の口コミによる情報発信で評価が高まっているとのこと。食堂で提供されている食材は地元農家のものも多く、時にはオーナーからのおすそ分けの品が提供されることもあり、食を通じて入居者と周辺コミュニティとの間に自然な繋がりが生まれているそうです。また食堂での何気ない会話から入居者の要望が分かることもあり、トーコーキッチンを介したコミュニケーションによって、入居者と東郊住宅社とお互いに大きなメリットが生まれていることが伺えました。
「ヒトが見えるとモノに対する思いが変わる」池田氏はそう語ります。実際、部屋を大切に使ってくれる入居者が増え、反対に家賃交渉は減ったそう。物件の成約率も向上し、現在は食堂スタッフも17人中、11人が東郊住宅社の入居者で、雇用増加にも成功するなどいいことずくめ。
最後は池田氏と参加者で、青ヶ島の来訪者へ向けた様々な意見が飛び交いました。もともと広告代理店勤務でトーコーキッチンを成功させたアイデアマンの池田氏、「既にヘリコプターに乗れる選ばれた9人しか渡れない特別な場所だ」「観光客を1日村長にするのはどう?」「島内は石で作ったお金しか使わない!」といったアイデアで盛り上がり、スタディツアーは賑やかに終了しました。