スタディツアーレポート Hコース(三宅島、八丈島)

Hコースは、アクションプランの実現を見据え、島の魅力を感じてファンになってもらうためには、ターゲットにどのように接点を持ち、どのような体験を提供すれば良いのかという観点から、観光客の行動分析や地域経済分析システム(RESAS)等のデータを上手に活用している企業を中心にピックアップ。デジタル観光ツアーアプリ「SpotTour(スポットツアー)」を提供するボクシーズ株式会社より講師をお招きし、講義形式でお話を伺いました。その後、「シェア畑」などの農業ビジネスを展開する株式会社アグリメディア、休日のお出かけメディア「Stock.Shop(ストックショップ)」を展開する株式会社frasco(フラスコ)を訪問しました。

12言語でナビゲート。デジタル観光ツアーアプリ「SpotTour」

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IoT(※)や位置情報を活用し、地域の観光スポットをつないでコースとして発信するデジタル観光ツアーアプリ「SpotTour(スポットツアー)」。開発を手掛けたボクシーズ株式会社 代表取締役の鳥居 暁 氏から、事業内容などを伺いました。
(※)Internet of Thingsの略。通信機能を持った「あらゆるモノ」がインターネットでつながり、情報を交換することで相互に制御する仕組みのこと。

「SpotTour」は、複数のスポットを回遊するツアーを地図上で案内する「ツアーガイド」、各スポットを巡ると端末の位置情報からその場所の限定スタンプを獲得できる「スタンプラリー」、各スポットを訪問した日時履歴が自動的に保存される「ツアーカード」、各スポットを訪問した際に撮影した写真がスポットと紐づく「フォトブック」の機能を持つアプリで、現在、東京メトロと実証実験中のスタンプラリー企画第1弾「駅から始まるさんぽ道 2019」(※)を公開しています。
(※)東京メトロが通年開催する東京都の地下鉄沿線の街の魅力を再発見することを目的に企画された散策型スタンプラリー。

これまでのスタンプラリーは参加型のスポットツアーとしては人気のコンテンツですが、四季を通じて開催する場合、スタンプ台や台紙を常設することができない物理的な課題があります。これをアプリで解決したのが「SpotTour」の取組です。

ボクシーズは地域の方に「SpotTour」のプラットフォーム利用料を無料で提供しています。アプリを通じて、人を呼びたいと活動する地域の方にお金が回るような仕掛けを生み出しました。鳥居氏は「このアプリを活用すれば、外国人も含め、無人でいつでも観光案内ができるようになる」と各地域への活用に期待を寄せます。

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課金機能としては、現地でしか見られない限定情報を「ツアーカード」として出力する機能があり、この収益はボクシーズと運営者がレベニューシェア(※)で受け取ります。
(※)パートナーとして提携し、リスクを共有しながら、相互の協力で生み出した利益をあらかじめ決めておいた配分率で分け合うこと。課金機能は2019年9月に提供予定。

アクションプランの「七色八丈(※)」の取組にもマッチするアプリの登場に、島での活用を想定した参加者からは「携帯電話が圏外でも大丈夫か?」「どのくらい利用されれば儲かるか?」など、質問が飛び交いました。
(※)豊かな降雨に恵まれ「虹の島」とも呼ばれる八丈島の多彩な魅力を、雨上がりの虹の色になぞらえて表現した八丈島のブランドコンセプト

都市と農業つなぐ「シェア畑」

続いて、株式会社アグリメディアに移動し、事業企画本部 部長 熊谷俊英氏から事業の説明を受けました。同社のコンセプトは「都市と農業つなぐ」。そのコンセプト通り、都市におけるあらゆる農業ビジネスを展開する新進気鋭のベンチャー企業です。

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例えば野菜作りを趣味として楽しんでもらうことを目的とした、サポート付き市民農園「シェア畑」の運営では、使われていない農地をアグリメディアが借り上げて区画割し、年間10万円程でサブリースしています。畑を貸し出すだけの都市型市民農園も多い中、アドバイザーに直接相談でき、農具・種苗・肥料はあらかじめ用意されているなど、初心者でも安心して利用できる仕組みを整えています。現在、93農園、6,000区画、2万人の利用者がいるそうです(数値は2019年6月末時点)。

また、趣味からステップアップしてもらえる仕組みとして、農業学校を運営しており、栽培法などを学ぶ場を提供しているのも特徴のひとつ。求人も積極的に行っており、現在では4,200ほどの国内の農家が利用しているそう。趣味から始まり、就農の機会提供へとつないでいます。

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旬野菜の収穫体験を楽しむことができる新感覚のバーベキュー場「ベジQ」の運営も手掛け、首都圏近郊4か所で展開しています。利用者にはバーベキューに収穫体験という付加価値を提供し、周辺の提携農家にとっては、野菜を通常の市場に流通させるより手取りが増える仕組みを作っています。最も大事なポイントは、「利用者に収穫を通して農業をレジャーとして捉えてもらい、ひいては就農者を増やしていきたい」(熊谷氏)とのこと。

参加者はシェア畑について、メインの利用層や具体的なサポート方法、離島での展開可能性、収穫した農作物の販売について質問するなど、事業の理解を深めていました。

いいお店を探すためのサービス「Stock.Shop(ストックショップ)」

街歩きガイドメディアの「Stock.Shop」は、その街で暮らし、働いているローカルリコメンダーがおすすめのお店や立ち寄りスポットなど、休日や週末のお出かけに役立つ情報を紹介しているサイト。スタディーツアーの最後は、同サイトを展開する株式会社frasco(フラスコ)の代表取締役共同CEOの大谷パブロ具史氏から事業内容などを伺いました。

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高品質であれば購入された時代から、「誰が、どんな思いで作っているか、プロダクトの完成に至るまでの行程を含めてモノを買う。ストーリーが評価される時代へと変わってきている」と大谷氏は言います。「Stock.Shop」は、飲食店に限らず「いいお店」を探すためのサービスで、街にある、そのエリアのコミュニティに良い影響を与えているお店を文化財としてとらえて紹介しています。

大谷氏は、「Stock.Shop」にはトライブ・マーケティング・ソリューション(※)として、メディアとビジネスという2つの役割があると説明。メディアサイドは顧客が触れる部分で、一つひとつ取材し、480店舗までネットワークを拡大した「街歩きガイド」という機能。一方、ビジネスサイドは物理的にファンに商品や情報を届けることを目的に、企業と商品開発やコンテンツ開発を行っています。その成果をさらにメディア上に循環させていくのが大きな特徴です。
(※)単なる消費者でなく、ブランドを信じ、自らがそのブランドを宣伝していく消費スタイルの集団(=トライブ)を媒介としたマーケティング手法。

ウェブメディアはこれまで各店舗を単体で紹介していたそうですが、今年の4月に、店舗と店舗をつなぐルートとして紹介し、1つの街をパッケージングした街歩きガイドの形にリニューアルしたとのこと。エリアや店舗のジャンルで検索できる仕組みで、掲載店舗ごとに、リコメンダーのストックしている情報やコメントを閲覧でき、同じ趣味の持ち主同士の輪が広がります。

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雑誌にない、ウェブメディアの強みとしては、「情報が手元で更新され、自分でフォローしたりマップで整理したり、ユーザー側でカスタマイズできる点」(大谷氏)とのこと。ユーザー数は2019年4月から30倍に増えて9万5千名にのぼり、ユーザー分布としては東京が半数、残りは神奈川、大阪、愛知など。男女比は半々くらいで女性が少し多め、年齢は20代から40代とのこと。

ビジネスサイドでは、インフルエンサーが200名程いて、決してマス向けではないものの、影響力がある、そういう人を480店舗分押さえているとのこと。例えば、子連れのママ向け商品をアプローチしたい時は、ジャンルや場所、性質などで切り分けて、子連れのママ向けのセグメント(※)を作り出し、情報をアプローチすることもできるそう。
(※)購買行動において似通っている顧客層の集団のこと。

大谷氏のサービスの実数を踏まえたプレゼンに参加者は聞き入り、これからの島の魅力を発信していく取組について、ヒントを得たようでした。

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