フィールドワークレポート 谷根千コース

谷根千コースは、「街全体をホテルに見立てる」コンセプトのホテル「谷中hanare(ハナレ)」と、もともと地元のお寺が所有していた築80年の古民家群を改修した「上野桜木あたり」を訪問。

東京の下町、谷根千エリアへ

参加メンバーが向かったのは、文京区および台東区に位置し、古き良き東京の歴史と情緒を感じられる谷中・根津・千駄木エリア。JR日暮里駅を降り、谷中方面に歩くと都内でも有数の商店街「谷中銀座商店街」のアーチが現れました。

下町レトロな「谷中銀座商店街」はインバウンド観光でも人気の観光地ですが、今回は商店街から横道に入った静かな住宅街へと足を進めます。

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最初に訪問したのは、築60年の木造アパートを改修した「HAGISO(ハギソウ)」。1階にカフェとギャラリースペースを備え、2階は「街全体をホテルに見立てる」コンセプトのホテル「谷中hanare」の宿泊を受け付けるレセプションになっています。

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ユニークなコンセプトのホテル「谷中hanare」は、谷中の住宅街にカフェや宿泊棟が点在。宿泊客はレセプションで地元の銭湯やレンタサイクルショップ、商店や飲食店、文化体験の教室などを紹介され、街を回遊する仕組みになっています。

ホテルのレセプションも兼ねる「HAGISO」で、施設の企画運営も担う設計事務所「HAGI STUDIO(ハギ スタジオ)」の田坂創一さんに、施設について紹介していただきました。

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この建物は、元々は寺院経営の下宿「萩荘」で、東京芸大に通う美術学生たちのアトリエ兼たまり場となっていたといいます。老朽化で「萩荘」の取り壊しが決まり、大学で設計を学んでいた学生たちが建物のお弔いと称して美術展「ハギエンナーレ」を開催。

同展は3週間で約1,500人の来場を集め、大家さんの「壊してしまうのは勿体ないね」との声に応えた学生たちが自ら設計。1年がかりで改修し、2013年3月に最小文化複合施設「HAGISO」として新たに開業しました。

宿泊事業は「地域の雰囲気をおすそ分けしてもらう感覚」を大切に運営。谷中では日頃から個人店同士の助け合いがあり、ホテルでもスタッフオススメの店を記した「昼用マップ」「夜用マップ」を宿泊客に提供するなど、互助精神を大切にしながら事業を運営しています。

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各島から集まった参加者が「近くに競合する旅館はあるのか」との質問に、「地元の旅館とは競合関係ではなく協業関係」だと答える田坂さん。地元の旅館に宿泊業を始める相談をしたところ、リネン業者を紹介してもらったといいます。

地域の付き合いの中でサポートし合えるコミュニティの強さは、島にも通じる部分です。施設の総工費や経営状況などの鋭い質問も飛び交い、参加者は真剣な表情でメモを取っていました。

路地で緩やかにつながる「上野桜木あたり」

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続いて向かったのは、築80年の古民家群を改修し、レトロ感漂う複合施設に再生した「上野桜木あたり」。借家として運営していた3棟の建物の老朽化により住人が立ち退き後、土地がT字形をしていることや、建物規制などの理由から利活用が課題となっていたといました。地元NPOの「たいとう歴史都市研究会」のコーディネートでテレビ番組の撮影に使われ、好評となったことから古民家を生かした活用を考えるようになったといいます。

古民家再生を得意とする地元工務店の協力も得て、建物を改修。歩きやすいよう石畳と砂利の路地をひき、2015年3月に「上野桜木あたり」としてオープン。3つの四角形が重なり合うロゴマークは、3棟のつながりを示しています。

地域に休憩できる憩いのスペースが少なかったことから、路地「みんなのろじ」と座敷「みんなのざしき」は緩やかに開かれた共有スペースとして位置付け。路地には昔ながらのポンプ式井戸も保存されていました。

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パン屋や塩とオリーブオイルの専門店、クラフトビールのビヤホールなど、こだわりある食のテナントは、ほとんどが新規開業のお店。建物を改修する前から募集を行い、15組程度の応募があった中から選定しています。

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海外からの観光客が多い谷根千エリア。私たちが訪れた際も、リラックスしてくつろぐ外国人観光客の姿がみられました。参加者からは「外国人ツーリストのおもてなしで気をつけている点は?」との質問も。店舗により英語メニューを用意、英語話者のスタッフを雇用するなどして対応しているそうです。

印象的だったのは、施設改修などに自治体などの補助金を一切利用していないこと。運営会社の塚越商事株式会社では、建物を守りたいという思いや楽しく地域を盛り上げる発信地としたいとの思いがある一方で、営利事業として数字をシビアに試算しながら経営しているそうで、熱い思いと手堅い経営のバランス感覚からは、大いに学ぶものがありました。

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