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東京宝島:伊豆諸島と小笠原諸島

東京から約100~2000kmの太平洋上に点在する大小200の島々で構成される東京島しょ地域。伊豆諸島や小笠原諸島では、農業や沿岸漁業、観光業を主な産業としながら人々が暮らしている。1年を通じて温暖な気候が続き豊かな自然に恵まれている一方、四方を海に囲まれ、火山灰地質という厳しい環境の中で、本土とは異なる独自の生活文化が育まれてきた。各島それぞれが固有の慣習や文化を伝承しながら、それぞれに貴重な産品を数多く有している。

伊豆諸島と小笠原諸島

焼酎文化の発展

東京島しょ地域を代表する産品の1つが焼酎。そのルーツは1853年にまで遡る。江戸時代、鹿児島の商人であった丹宗庄右エ門(たんそうしょうえもん)が琉球との密貿易によって八丈島への流刑となったことが発端。島で芋が栽培されていることを知った丹宗庄右エ門が、九州の焼酎造りを島民に伝授し、その技術が八丈島から各島々へと伝わった。米が貴重な作物であったため代替として麦麹を用いる製法が根付き、“麦麹で仕込む芋焼酎”という全国的にも珍しいスタイルが定着。麦麹特有のさわやかな香りと芋の旨味のバランスに優れた味わいが島の焼酎の特徴だ。

ラム酒造りの起源

小笠原諸島に伝わるラム酒造りの背景はまた独特だ。1876年に小笠原諸島が日本領土になると、亜熱帯の気候を活かしたサトウキビ栽培による製糖業が盛んになり、その過程で生じた副産物を発酵・蒸留して造った酒を「糖酎」や「蜜酒」と親しみ島民が愛飲するようになったことがラム酒製造の起源。その後、第二次世界大戦によって製糖業が衰退し、ラム酒文化は一時途絶えることになるが、終戦後1968年に小笠原が日本に返還されると、再び島民の日常酒としてラム酒の需要が復活。1989年に小笠原ラム・リキュール株式会社が設立され、小笠原の地酒としてのラム酒が誕生するに至った。

島外に広がる島酒

島に焼酎が伝来してから、およそ160年。現在なお10社の蔵元が健在。元々は島民の日常酒としての島内消費がメインであったが、次第に島外にもその存在が知れ渡り、近年では焼酎愛好家やこだわりの酒を求める人々の間で、その希少性と独特の味わいから、“幻の焼酎”と呼ばれるなど注目を集めている。また、小規模である上に杜氏の世代交代も進む中で、各蔵元が固定概念にとらわれない革新的な焼酎造りにも果敢に挑む。最近はクラフトジンやお茶の作り手とも垣根を越えたコラボレーションを図るなど、常に焼酎の新しい可能性を追求している。

島の景色と人が滲む本格焼酎、東京の島酒

八丈島酒造、新島酒蒸留所、山田屋(酒屋)を取材。酒造りのこだわりと、島酒にかける思いについて話を聞いた。

美味しい飲み方

焼酎・ラムに代表される蒸留酒は、水割、お湯割り、ソーダ割、ロック、ストレートなど、割り方によって様々な味わいを引き出し、楽しめるのも特徴。気温、お酒の特徴、料理との相性によって、自分好みの割り方を探してみると楽しさがさらに広がります。杜氏によってもおすすめとする飲み方には違いがあり、ゆかりのある杜氏に尋ねてみると、新たな発見と出会えるかもしれません。

ここでは、大島・谷口酒造の杜氏がおすすめする「御神火 天上(ごじんか てんじょう)」の飲み方をご紹介します。

<お湯割り>

  1. グラスにお湯を1/3ほど注ぎ、少し冷まします。(お好みによりますがの50℃から55℃くらいが適温かと思われます。)
  2. グラスに「天上」を丁度よい味になるまで、少しずつ注ぎます。
  3. もう1つグラスを用意し、何度か中身を移し替えます。

これによりお湯とお酒が良く混ざり合い、口当たりが柔らかなお湯割り焼酎をお楽しみいただけます。

<ロック>

  1. グラスに氷を入れます。
  2. 上記1~3の要領で濃い目にお湯割りを作り、氷に上に注ぎます。

こうすることで、より香りのたつ美味しい「天上」が味わえます。

INTERVIEW VOL.1
虎ノ門蒸留所 蒸留家
一場鉄平さん

INTERVIEW VOL.1 虎ノ門蒸溜所 蒸溜家 一場鉄平さん

島酒でつくる、東京のクラフトジン

作り手のこだわりがダイレクトに反映され、様々なボタニカルの組み合わせを無限に楽しめるクラフトジン。新たなお酒のカテゴリーとして昨今注目を集める中で、2020年に東京、虎ノ門に誕生したのが「虎ノ門蒸留所」。待望の東京産クラフトジンであり、既に多くのファンがいる虎ノ門蒸留所のジンの、そのベーススピリッツ(原料)に使われているのが島酒だ。蒸留家である一場鉄平さんに、その経緯や島酒の魅力を聞いた。...
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—まずは「虎ノ門蒸留所」について、どんな場所なのか簡単に教えて下さい。

虎ノ門蒸留所は、2020年に虎ノ門ヒルズに開業した飲食エリア「虎ノ門横丁」内に誕生した、ジンの蒸留所が併設された酒場です。東京五輪を見据えて、観光客、ワーカー、飲食関係者、みなが気軽に集まれる横丁内の広場のような場所をイメージしていて、その真ん中にジンの蒸留所があるといった感じです。東京のローカルな素材を発掘し、ジンとして発信することをコンセプトに掲げ、原酒から水まで、なるべく東京産のものにこだわってジンを造っています。とりわけ、私たちのジンに欠かせないのが島酒です。主に2種類のジンを造っているのですが、定番の「COMMON」には八丈島の酒造、八丈興発の麦焼酎「情け嶋」を、その時期の旬なボタニカルで造る「季節のジン」シリーズには、新島の酒造、新島酒蒸留所の麦焼酎「羽伏浦」をベーススピリッツとして使わせて頂いています。

—島酒のことはどのようにして知ったのですか?

虎ノ門蒸留所の計画が立ち上がり、私が蒸留責任者としてジンを造り始めるにあたって、数ヶ月間ジン造りの修行をさせて頂いたのが岐阜県郡上八幡にある「辰巳蒸留所」です。代表である辰巳祥平さんは、国内はもちろん、世界各国の名だたる酒造りの現場を渡り歩き、“おいしい酒”を熟知している方でもあるのですが、その辰巳さんから「美味しい焼酎が東京にもある」と教えて頂いたことがきっかけです。お恥ずかしいことに、私は長年東京で生活していながら、それまで東京で焼酎が造られていることを知りませんでした。

—初めて島酒を飲んだ時の印象はどうでしたか?

最初に飲んだのは八丈島の「情け嶋」か、新島の「嶋自慢」だったかと思いますが、芋主体の九州の本格焼酎とはまったく違った味わいで、麦麹由来のすっきりと澄んだ飲み心地と香ばしさがとても印象的でした。この焼酎をベースに使えば、他のボタニカルの香りとも調和が取れた面白いジンが造れるのではないかとイメージが膨らみました。本格的に蒸留所が稼動する前に、八丈島まで行って八丈興発の小宮山さんを訪ね、ジンの原料として使わせて頂けないかと直談判したところ、快諾頂きました。新島酒蒸留所の宮原さんのことも紹介してもらい、島酒の作り手さんらとの交流が始まりました。

—実際に島酒を原料にしてジンを作ってみて、手応えはいかがでしたか?

まず、東京のローカルな素材を活かしてジンを造ることを前提として、ジンの味わいの方向性としては2つ大事にしたいことがありました。1つ目が、単一のボタニカル、ラベンダーならラベンダー、金木犀なら金木犀の、香りがしっかりと立ち上がってくること、2つ目が、気軽にレモンサワーのようにソーダ割で食中酒としてグビグビと飲めるジンにしたい、ということだったのですが、結果的に、島酒は自分たちの造りたいジンの原酒にぴったりでした。島酒と出会ったことで、メインボタニカルの香りが引き立ちながら、クリアな清涼感のある、虎ノ門蒸留所らしいジンが生まれました。

—今後の島酒との関わり方は?

この夏に「季節のジン」シリーズとして「月桃とパッションフルーツ」というジンを造ったのですが、この時はベーススピリッツに小宮山さんから特別に分けて頂いた「情け嶋」のリキュールを使い、ボタニカルの月桃もパッションフルーツも八丈島産を用いました。これが自分としても自信作で、お客さんにも好評頂きまして。島酒はもちろん、八丈島にも興味を持ってもらえたことがとても嬉しかったです。これからも自分たちのジンを通じて、島酒はもちろん、島の魅力を伝えていけたらいいですね。

【一場鉄平 プロフィール】
アメリカオレゴン州のポートランド在住時、クラフトな酒造りや小商いカルチャーに影響を受ける。その後、株式会社ウェルカムの事業開発部にて、虎ノ門横丁の企画、プロジェクトマネージャー職に従事。
岐阜県郡上八幡のアルケミエ辰巳蒸留所の辰巳祥平さんの元で研修を受け、自身も企画開発案件として関わった虎ノ門蒸留所の蒸留家、事業運営担当者として2020年より活動開始。
東京素材をベースに使用したCOMMONジンと、時季の植物を蒸留した季節のジンシリーズを手掛ける。

INTERVIEW VOL.2
大場文武さん
(バーテンダー/ミクソロジスト)

INTERVIEW VOL.2 バーテンダー/ミクソロジスト 大場文武さん

カクテルとしても広がる島酒の世界

島酒の魅力は、ジャンルの垣根を越えて広がる可能性も秘めている。NYやロンドン、ベルリンなど世界中の都市でリバイバルの兆しを見せるバーカルチャーにおいて、東京のシーンを担う気鋭のバーテンダーらも島酒に注目。“FARM TO BAR”をコンセプトに掲げ、野菜や茶葉など、生産者や産地との関係性にまでこだわった素材で作る独創的なカクテルが国内外から高い評価を得るバーテンダー、大場文武氏もその1人だ。...
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—島酒に注目しているということですが、そのきっかけは何だったのですか?

最近はレストランでもバーでも、海外のゲストをおもてなしすることが多かったので、お茶など、日本の素材を活かしたカクテルを作ることをテーマに活動しているのですが、“日本の蒸留酒”として何か良い素材がないかと探していた時に出会ったのが島酒でした。試飲会で偶然飲んだことがきっかけです。それまで島酒の存在は知りませんでした、口にしてみると焼酎の先入観を覆すような軽快な飲み口と香味で驚きました。クセが強くなく、味の個性はしっかりとあって、ちゃんと島らしさも感じられる。バーテンダーとしての想像力がぐっと膨らみました。

—バーテンダーにとって、そもそも焼酎とはどのような存在でしたか?

これまでカクテルの世界では、焼酎を素材として使うという発想はあまりなかったです。そもそも焼酎の作り手側も、割ものにせずに、ロックや水割りで飲んで欲しいという思いが強くあったと思います。ただ、最近では作り手の世代交代も進み、考え方も柔軟になり、本場九州でもカクテルアレンジを意識した焼酎が生まれたりしています。島酒は味のクオリティはもちろん、作り手の姿勢としても、虎ノ門のジンとコラボするなど、既成概念にとらわれない先進的な方が多いので、和酒や洋酒の垣根を越えて、そのポテンシャルが広がっていくと思います。

—焼酎をカクテルとしてアレンジする魅力はどんなところにありますか?

もちろんストレートやロックで楽しむのが、その焼酎らしさを一番味わえますが、カクテルとして味に立体感を出したりテクスチャーを変えることによって、食中酒だけでなく、食前酒としても、食後酒としても楽しめるようになります。焼酎が苦手だと思い込んでいる方が、カクテルで飲むことで、逆に焼酎の魅力を再発見することもありますよね。

—実際に島酒でカクテルを作ってみていかがでしたか?

島酒は、各島や蔵元、作り手の違いで、味わいの振れ幅があって、銘柄によってカクテルのイメージが様々に広がっていくのがとても面白いです。例えば、「あおちゅう」の場合だと、柔らかい酸味が特徴的な焼酎なので、その味わいを軸に置きつつ、食後酒としてロックでもう少し飲み応えあるアレンジにしても楽しいかなと思って、リンドウのリキュールで苦味を加えつつ、ベルモットでさりげなく甘味を足したカクテルにしました。

—今後、島酒を使って挑戦したいことはありますか?

私は“FARM TO BAR”という考え方を大切にしているので、できることなら島に行って作り手さんのことも深く知りたいですし、島の野菜やフルーツなど現地の農作物と島酒を使ってカクテルを作ってみたいです。利島の椿オイルなんかもカクテルの素材にしたら面白そうですよね。

【大場文武 プロフィール】
銀座のバーにてマネージャーを務めたのち、「Code name mixology Akasaka」にてヘッドバーテンダーとして活躍。表参道にある日本茶専門店「櫻井焙茶研究所」で研鑽を積み、東京外苑前のレストラン「Florilege」の専属バーテンダーに就任。季節のフルーツやハーブ、お茶をミクソロジーの技法と合わせアルコール、ノンアルコール両方のドリンクを食事に合わせてカクテルペアリングとして提供。現在はフリーランスで企業やメーカー、お茶や農作物の生産者と一緒にドリンクを開発中。

カクテルレシピ

島酒は「クセは強くないのに、味の個性はしっかりとある」と語る大場氏。今回、島酒をカクテルとしてアレンジすることで、それぞれの個性をさらに引き出すことに試みた。

作り方
作り方

Rich コク

熟成させたことからくる芋の豊かな香りとコクをより一層引き出すために、芋と同系統の香りとポリフェノールを持つコーヒーのほろ苦さと、ハーブリキュールの香りと甘味を加えました。

地鉈(式根島) 40ml
コーヒーリキュール 5ml
スイートベルモット 15ml

ガーニッシュ:
オレンジピール
コーヒー豆

Sour 酸味

麦麹とサツマイモ、野生の酵母で発酵させたことからなる独自の酸味をより一層引き出すために、ハーブのほろ苦さとリキュールの酸味を加えました。

あおちゅう(青ヶ島) 25ml
スーズリキュール 10ml
リレブラン 25ml

ガーニッシュ:
レモンピール

あおちゅう
むじんざけ 無人酒

Sweet 甘味

サトウキビ特有の芳醇な甘みと力強さをより一層引き出すために、ベリーの酸味とミントの爽やかさ、ココナッツの甘味を加えました。

無人酒(小笠原) 30ml
レモンジュース 10ml
ミックスベリー 50g
ココナッツウォーター 10ml
シンプルシロップ 10ml

ガーニッシュ:
ミント
ミックスフルーツ

Bitter ほろ苦さ

麦の甘みとローストされた香ばしいフレーバーをより一層引き出すために、同じ東京産のローストした麦茶の香ばしさとほろ苦さを加えました。

情け嶋(八丈島) 30ml
麦茶(川原製粉所) 125ml

ガーニッシュ:


*川原製粉所
1940年創業。昔ながらの“砂窯焙煎”にこだわり、苦味とかすかな甘みが複雑に入り込んだ奥深い味わいの麦茶の味にファンは多い。

八丈ONI Brand 焼酎 情け嶋 ナサケジマ 本格焼酎

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各島の個性豊かなお酒を、のんびりめぐる旅先晩酌。

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島の景色と人が滲む本格焼酎、東京の島酒
島酒の魅力や歴史を探るべく、東京の島々を訪れた。

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アンテナショップ「東京愛らんど」

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